放送研究と調査
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分断の時代の不偏不党
BBCの事例から
税所 玲子
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2021 年 71 巻 8 号 p. 32-46

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抄録

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、偽情報・誤情報の広がりが喫緊の課題として認識される中、世界の公共放送の代表格といわれるイギリスBBCは、「信頼できる確かな情報の担い手」として、自らの役割と価値を改めて打ち出そうとしている。 本稿は、その取り組みの最優先策として挙げられた「不偏不党の徹底」に焦点をあて、その理念がどのように放送で実践されてきたのか、その変遷を概観した。スエズ危機やフォークランド紛争など、時として権力と激しく対立しながら模索してきたそのアプローチは、デジタル化と多民族化が進む中で、「シーソーのようにバランスをとる」ことから、「多種多様な価値を反映」させるべく、「正確性、バランス、文脈、公平・公正、客観性など」が合わさった多様なものであるべきだとの認識へと進化を遂げる。そして、戦後最大の外交政策の転換と言われるEU離脱によって政治社会が分断し、対立感情があらわになりやすい雰囲気が広がる中で、左右からの批判にさらされたBBCは、再び変革を迫られる。本稿では最後に、これまで視聴者とのエンゲージメントの手段としてきた取材者のSNS発信を制限するなど、新たな実践の形を模索する姿を紹介する。

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© 2021 NHK放送文化研究所
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