植物分類,地理
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葉緑体DNAの制限酵素断片長多型分析に基づくシュロソウ属の変異
加藤 英寿山田 恭子上田 都高橋 弘河野 昭一
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1997 年 47 巻 2 号 p. 203-211

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抄録

外部形態に変異が多いため種及び種内分類の混乱している日本産シュロソウ属3種(コバイケイソウ(広義)Veratrum stamineum sens. lat., バイケイソウV. album ssp. oxysepalum, アオヤギソウ類V. maackii sens. lat.)について葉緑体DNAの制限酵素断片長多型分析を行い, それらの遺伝的変異とそれによる系統関係を調べた。研究は, シュロソウ属植物について32集団(日本29集団, 韓国2集団, Austria1集団)から集めた固体について, 8制限酵素を使って行われた。その結果, 19サイトに変異が見つかり, そのデータを基にして行われた最節約系統解析によって, 比較した32集団は以下の3群に分かれた。即ち, コバイケイソウ(広義)と本州(関東から近畿地方)産のバイケイソウからなる1群, 北海道, 中国地方, 四国, 九州, 韓国, Austria産のバイケイソウ(広義)からなるII群, アオヤギソウ類からなるIII群, である。形態的にはI群にはいるコバイケイソウと本州産のバイケイソウとの差は明瞭であり, むしろI群とII群のバイケイソウは, 前者の花被のサイズがやや大きいことを除いて, ほとんど差がない。そこで, I群のコバイケイソウと本州産のバイケイソウの遺伝的近縁性を説明するために, 二つの可能性が考えられる。ひとつは葉緑体ゲノムの結果が示すように本州産のバイケイソウとコバイケイソウは単系統群であるという可能性, もうひとつは本州でコバイケイソウとバイケイソウの間で浸透性交雑(introgression)が起こって核ゲノムとオルガネラゲノムが入れ換わってしまっているという可能性があげられる。これらの仮説を検証するために, 今後は核ゲノムの解析を進める必要があろう。

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© 1997 日本植物分類学会
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