分析化学
Print ISSN : 0525-1931
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加熱脱着―GC/MSによるPM2.5中多環芳香族炭化水素類の直接分析と熊本における日内変動・季節変動や野焼きの解析
山崎 大梶原 英貴切井 仁崇大平 慎一戸田 敬
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2015 年 64 巻 8 号 p. 571-579

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抄録

PM2.5中の多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons: PAHs)を簡便かつ高感度に分析を行うため,従来の溶媒抽出(solvent extraction: SE)に代わり,加熱脱着法によるガスクロマトグラフィー質量分析(thermal desorption–gas chromatography/mass spectrometry: TD-GC/MS)について検討した.本研究では,フィルター捕集したPM2.5中のPAHsについてTDの条件検討を行うとともに,TD法とSE法の比較検討を行った.その結果,煩雑で時間のかかるSE法に比べTD法では溶媒を用いる前処理が不要なばかりか,同じフィルターを処理した場合桁違いに高感度なことが示された.簡便かつ高感度なため,比較的短いサンプリング(1~3日)を長期間続けることができ,PM2.5中PAHsの詳細な季節変動の追跡が達成された.PM2.5濃度は四季を通じて大きな推移を示さない一方,PM2.5中のPAHsは冬から春に高く,逆に夏にはほとんど観測されなかった.これは冬場の中国大陸におけるPAHsの放出とその移流が主な原因と考えられる.さらに,本法の高感度な特性を生かし,短時間のサンプリングによるPAHsの変動をみることができた.例えば4時間ごとにサンプリングを行い,日内でPAHs濃度が推移する様子を捉えることができた.また,阿蘇山の草原を20 km程度自家用車で走行し,野焼きで発生したPAHsの組成を調べることができた.野焼きの際に得られたPAHsは,季節変動の調査で得られたPAHsに比べて3~4環の低分子量のPAHsが多く,市内で1~3日採取したPM2.5中のPAHsと組成が異なった.以上のようにTD-GC/MSによるフィルターに捕集したPM中PAHsの分析条件を確立し,特徴ある分析結果を示して本法の有用性を示した.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry 2015
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