分析化学
Print ISSN : 0525-1931
64 巻, 8 号
若手研究者の初論文特集
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
報文
  • 山崎 大, 梶原 英貴, 切井 仁崇, 大平 慎一, 戸田 敬
    原稿種別: 報文
    2015 年64 巻8 号 p. 571-579
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    PM2.5中の多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons: PAHs)を簡便かつ高感度に分析を行うため,従来の溶媒抽出(solvent extraction: SE)に代わり,加熱脱着法によるガスクロマトグラフィー質量分析(thermal desorption–gas chromatography/mass spectrometry: TD-GC/MS)について検討した.本研究では,フィルター捕集したPM2.5中のPAHsについてTDの条件検討を行うとともに,TD法とSE法の比較検討を行った.その結果,煩雑で時間のかかるSE法に比べTD法では溶媒を用いる前処理が不要なばかりか,同じフィルターを処理した場合桁違いに高感度なことが示された.簡便かつ高感度なため,比較的短いサンプリング(1~3日)を長期間続けることができ,PM2.5中PAHsの詳細な季節変動の追跡が達成された.PM2.5濃度は四季を通じて大きな推移を示さない一方,PM2.5中のPAHsは冬から春に高く,逆に夏にはほとんど観測されなかった.これは冬場の中国大陸におけるPAHsの放出とその移流が主な原因と考えられる.さらに,本法の高感度な特性を生かし,短時間のサンプリングによるPAHsの変動をみることができた.例えば4時間ごとにサンプリングを行い,日内でPAHs濃度が推移する様子を捉えることができた.また,阿蘇山の草原を20 km程度自家用車で走行し,野焼きで発生したPAHsの組成を調べることができた.野焼きの際に得られたPAHsは,季節変動の調査で得られたPAHsに比べて3~4環の低分子量のPAHsが多く,市内で1~3日採取したPM2.5中のPAHsと組成が異なった.以上のようにTD-GC/MSによるフィルターに捕集したPM中PAHsの分析条件を確立し,特徴ある分析結果を示して本法の有用性を示した.
  • 新藤 敬梧, 岸川 直哉, 大山 要, 黒田 直敬
    原稿種別: 報文
    2015 年64 巻8 号 p. 581-587
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    パラコート及びジクワットは世界中で広く利用されている除草剤であるが,ヒトに対しても強い毒性を示す化合物である.本研究では,パラコート及びジクワットの同時定量を目的として,これらの毒性発現機構である活性酸素発生能を利用する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)化学発光定量法の開発を行った.本法は,シリカカラムを用いたHPLCにより分離したパラコート及びジクワットに,還元剤ジチオスレイトールを混合し,これにより生じる活性酸素をルミノールにより化学発光検出するという方法である.開発したHPLCシステムにおいて,パラコート及びジクワットはそれぞれ保持時間16.0及び13.0分に検出され,その検出下限(S/N=3)はそれぞれ40及び53 nMであった.本法をヒト血漿しょう中のパラコート及びジクワットの測定へと応用した結果,50% トリクロロ酢酸の添加による除タンパク操作のみで,血漿成分の影響を受けることなく選択的にこれらの化合物を定量可能であった.
  • 中町 鴻, 廣瀬 正明, 木川田 喜一, 廣瀬 勝己, 岡田 往子, 鈴木 章悟, 本多 照幸
    原稿種別: 報文
    2015 年64 巻8 号 p. 589-594
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及び,それにより発生した津波によって東京電力福島第一原子力発電所(以下,福島原発)は大きな被害を受け,環境中に多量の放射性核種を放出した.その影響で関東地方においても高濃度の放射性セシウム(134Cs,137Cs)が大気中でも検出された.本研究では大気粒子状物質(APM)に着目し,神奈川県における福島原発事故由来の放射性セシウムを長期的に観測することで,APM中の放射性セシウム濃度の経時変化並びに,大気環境中における放射性セシウムの存在形態について検討した.その結果,大気中の放射性セシウムの放射能濃度は2011年3月から2011年9月にかけて105分の1にまで減少したものの,その後は緩やかな減少にとどまり,2014年3月時点でも1.0 × 10-5 Bq m-3の放射能が検出されていることが明らかとなった.大気環境中における放射性セシウムの存在形態については,粘土鉱物中に強く固定されてしまう土壌中の放射性セシウムとは異なり,水溶性成分のものが50% 以上の割合を占め,土壌等のほかの環境中の放射性セシウムに比べ移動能が高いことが分かった.
  • 荒木 俊充, 乾 哲朗, 中村 利廣
    原稿種別: 報文
    2015 年64 巻8 号 p. 595-600
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    岩石中のDyを固体直接導入/黒鉛炉原子吸光分析法で定量する方法を開発した.ガラスビード/蛍光X線分析法で用いたガラスビードの再利用及びクロスチェックを想定しているので,岩石は四ホウ酸リチウムでガラスビードにして分析に供した.ガラスビード粉末にグラファイト粉末を重量比1 : 3で混合し,これを1.0~2.0 mgプラットフォームに分け取ってグラファイト炉に入れ,最適化した加熱プログラムで原子化して積分吸光度を求めた.定量は,岩石標準試料のガラスビード粉末で作成しておいた検量線を用いて行った.ガラスビード粉末にグラファイト粉末を混合することで,グラファイト炉やプラットフォームの寿命が延び,Dyの積分吸光度も著しく向上した.さらに,融剤の四ホウ酸リチウムが岩石中のDyの直接原子化時に増感効果をもたらすことも明らかになった.火山岩標準試料のガラスビード粉末を用いて作成したDyの検量線は1.4 ngまで良好な直線性(r=0.998)を示し,検出下限は0.07 ngであった.この検量線を深成岩標準試料中のDyの定量に応用したところ,分析値と参照値は良く一致し,相対標準偏差(n=5)は6.6~8.9% で,再現性も良好であった.さらに,本邦産の3岩石試料中のDyを定量したところ,ガラスビード/蛍光X線分析法で定量下限以下であったDyを定量することができた.本法はガラスビードの再利用及びクロスチェックの方法として有用であった.
  • 山根 謙吾, 堀岡 祐太, 藤野 雅之, 伊藤 一明
    原稿種別: 報文
    2015 年64 巻8 号 p. 601-608
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    イオンクロマトグラフィー(IC)を用いる海水中の微量無機陰イオン[ヨウ素酸イオン(IO3),臭素酸イオン(BrO3),臭化物イオン(Br),亜硝酸イオン(NO2),硝酸イオン(NO3),ヨウ化物イオン(I)]の同時定量法を検討した.分離カラムとしてドデシルアンモニウム陽イオン(DA)を平衡吸着させた逆相系C18シリカカラムあるいは逆相系C18ポリマーカラム,溶離液として0.5 mM塩化ドデシルアンモニウム(DAC)と5 mMリン酸緩衝液を含む高濃度塩化ナトリウム溶離液(pH範囲: 2.0~6.5)を用いて目的イオンの分離を検討した.ポリマーカラムではアルカリ領域(pH範囲: 7.0~10.0)でも検討した.測定には紫外可視検出器(測定波長225 nm)を用いた.逆相系C18シリカカラムでは,溶離液のpH 4.5以上で純水中の各イオンの良好な分離・検出が得られた.人工海水中の各イオンについても海水中の共存塩分の影響もなく良好な分離・検出が得られた.この陰イオンの分離は,ドデシルアンモニウム陽イオン(DA)吸着─C18シリカとの静電的な引力とNHプロトンによる水素結合により達成された.一方,逆相系C18ポリマーカラムでは,pH 2.5以下で6種のイオンの分離は可能であったが,NO2の検出は不十分であった.人工海水中の各陰イオンの分離・検出は不十分であった.逆相系C18シリカカラムを用いた測定システムの最適化により,人工海水中の上記6種イオンを1サンプル25分で測定可能であった.高濃度塩化ナトリウム溶離液はDACのカラム吸着を増加させた.0.5 mM DACの添加は陰イオンの分離性能の維持に有効であった.良好な繰り返し測定精度[相対標準偏差(RSD)<1.24%(n=5),保持時間,ピーク高さ,ピーク面積]と検量線作成(r2>0.999,ピーク面積法)がすべての陰イオンに対して得られた.検出限界値(S/N=3,サンプル注入量100 μL)は,IO3(7.5 μg L-1),BrO3(17.3 μg L-1),Br(83.2 μg L-1),NO2(0.73 μg L-1),NO3(1.5 μg L-1),I(0.73 μg L-1)であった.本法が瀬戸内海水中陰イオンの同時定量に適用された.その添加回収率は99~109% の範囲内であった.
技術論文
  • 嬉野 絢子, 澤津橋 徹哉, 野崎 昭宏, 椿崎 仙市, 角田 淳, 下田 翔, 神田 美里
    原稿種別: 技術論文
    2015 年64 巻8 号 p. 609-615
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    ボイラ給水中の鉄分析方法(JIS B 8224.32)である2,4,6-トリ(2-ピリジル)-1,3,5-トリアジン吸光光度法(以下,加熱濃縮─TPTZ法)の前処理方法として,メンブレンフィルターとイミノ二酢酸型キレートフィルターを併用した2段フィルター濃縮法(以下,フィルター濃縮法)を開発した.水処理方式として酸素処理法(CWT: 複合水処理)が多く採用される超々臨界圧ボイラでは,プラント運転不具合防止のために給水中鉄濃度を2 μg L-1以下と厳しく管理することが求められる.CWT適用ボイラの給水中に含まれる鉄の大部分は固体であるヘマタイト(α – Fe2O3)として存在していることから,メンブレンフィルターで粒子状鉄を,キレートフィルターで残存する溶存鉄を捕集する手法により,現場において迅速に高倍率で試料を濃縮することができる.開発した方法をCWT運用超々臨界圧ボイラの各系統の鉄濃度分析に適用した結果,従来では評価が困難であった低濃度域を精度よく分析することができ,分析時間の短縮も図れることから現場に適した手法であることを実証した.
  • 三好 花奈, 阿部 善也, 高久 雄一, 中井 泉
    原稿種別: 技術論文
    2015 年64 巻8 号 p. 617-624
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    シダ植物ヘビノネゴザ中の希土類元素(REE)の挙動を解明するため,レーザーアブレーション─誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用いたイメージングを行った.装置の最適化を行うことで,重金属高蓄積植物として知られるヘビノネゴザの葉におけるREEの分布を可視化することに成功した.葉において,軽希土類元素(La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd)と重希土類元素(Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)で濃集部位に二つの相関が存在することが明らかになった.さらに,自作標準試料により半定量イメージング法を確立したことで,濃集部位における局所的なREE濃度を与えることができた.
ノート
  • 竹川 知宏, 石井 健太郎, 西脇 芳典, 蒲生 啓司
    原稿種別: ノート
    2015 年64 巻8 号 p. 625-630
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    This study has revealed that SR-XRF (synchrotron radiation X-ray fluorescence spectrometry) is a highly effective technique for forensic discrimination of automotive aluminum wheel fragments. After 47 automotive aluminum wheels were collected, those fragments with a size of less than 300 × 300 μm2 were used as analytical samples. Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ga, Pb, Sr and Zr were detected from the small fragments. Comparisons of the samples were conducted based on the normalized X-ray intensities, which are X-ray intensities of these elements (Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Pb, Sr and Zr) normalized by those of Ga. All fragments could be discriminated using the normalized X-ray intensities. The normalized X-ray intensities could be useful as important indicators to discriminate samples. The normalized X-ray intensities were used in principal-component analysis to classify the automotive aluminum wheel fragments. As a result, the automotive aluminum wheel fragments could be divided broadly two groups according to the normalized X-ray intensities of Cu/Ga and Sr/Ga. It was found that the automotive aluminum wheel fragments contain rich elemental information for discrimination and, therefore, the materials can be important evidences for practical forensic examination.
アナリティカルレポート
  • 中島 美優, 小谷 明, 楠 文代, 袴田 秀樹
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2015 年64 巻8 号 p. 631-635
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    For the voltammetric determination of acid values in fat and oils based on the reduction prepeak of 3,5-di-tert-butyl-1,2-benzoquinone (DBBQ), a newly electrolyte cocktail containing 9 mM DBBQ, 48 mM LiCl, and 1.2 mM palmitic acid in 1-butanol was prepared. Also, the electrochemical cell and the voltammetric conditions were optimized. Deoxygenation from the electrolyte cocktail was not required to measure a voltammogram of DBBQ because the reduction peak potential of DBBQ was more positive compared with that of oxygen. The voltammetric prepeak height of DBBQ caused by palmitic acid was found to be linearly related to the palmitic acid concentrations in standard solutions from 0.042 mM to 2.5 mM (r = 0.999). This result showed that the determination of the acid values in fats and oils can be carried out by the present method, ranging from 0.031 mg to 1.85 mg. The analytical result of the acid value in olive oil by the present method was 0.212 mg using the standard addition method, while that by the official titration method of the Japan Agricultural Standards was 0.214 mg. Additionally, the acid values in commercial sesame, corn, grape seed, safflower, salad, and cottonseed oils determined by the present method also agreed with those by the titration method (r = 0.999). In terms of facility, environment-friendliness, and economy, the present method has advantages and thus would be applicable to a sensor to examine the deterioration of fats and oils in routine work.
  • 澤村 大地, 加藤 千里, 松崎 真弓, 柳瀬 和也, 谷口 陽子, 中井 泉
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2015 年64 巻8 号 p. 637-642
    発行日: 2015/08/05
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    Glass products, such as glass beads excavated in Japan from Yayoi to Kofun period sites, were all produced abroad and brought to Japan via unknown ports. This paper reports on the results of non-invasive chemical analysis using a portable XRF on 253 glass beads excavated from various archaeological sites in the Kanto region. The base glasses were classified into three types: i.e., potash glass, soda lime glass, high alumina soda lime glass, which showed similar characteristics to those excavated from the Kyushu region. These similarities were also confirmed through trace element signatures of heavy elements. In the late Yayoi period, in both the Kyushu and Kanto regions potash glass comprised the majority of the glass chemical compositon; however, during the Kofun period, this changed to mainly soda lime glass in the Kanto region, while high alumina soda lime glass is dominant in the Kyushu region.
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