日本物理学会誌
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強磁性超伝導体―強磁性ゆらぎによるスピン三重項超伝導―
石田 憲二青木 大
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2019 年 74 巻 1 号 p. 24-33

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抄録

強磁性体は磁力線を発するのに対し,超伝導体は磁力線を外部にはじき出すことから,強磁性と超伝導は相反する物理現象として直観的には理解できる.しかし両現象を示す物質(強磁性超伝導体)が1958年にB. Matthiasらにより発見され,その後もいくつかの超伝導体で報告されている.最初に報告された(Ce1-xGdx)Ru2では,Gdの局在4 f 電子が強磁性を,Ruサイトの結晶中を伝導する電子(遍歴電子)が超伝導を担っている.また,層状構造の銅酸化物高温超伝導体でも強磁性超伝導体が報告されており,RuSr2YCu2O8(強磁性転移温度TCurie~150 K,超伝導転移温度TSC~45 K)では,RuO2層で強磁性が,CuO2層で超伝導が起こっていることが知られている.このように,2000年までに知られていた強磁性超伝導体は,異なる結晶サイトの電子による強磁性と超伝導の住み分けが起こった状態であった.

それまでの「常識」を覆す報告が,2000年にCambridge大とCEA-Grenoble(フランス原子力庁)の共同研究からなされた.彼らは,52 Kで強磁性を示すウラン化合物UGe2が,圧力下で強磁性状態を保ったまま0.7 Kで超伝導を示すことを報告した.この物質では強磁性と超伝導の起源はともにウラン元素によるものと考えられ,超伝導研究者に大きな衝撃を与えた.この発見以降,圧力を加えなくても超伝導を示す強磁性体URhGeやUCoGeが発見された.これらウラン系強磁性超伝導体では強磁性状態から超伝導転移を起こし,両現象は遍歴的なウラン5 f 電子によることが実験から示された.従ってこれらの物質における強磁性と超伝導の関係,超伝導の対状態に興味が集まっていた.

ウラン系強磁性超伝導体に見られる共通の特異な現象として,超伝導上部臨界磁場の異常な振舞いが挙げられる.通常の超伝導体では磁場を印加すると超伝導転移は抑制されるが,これら強磁性超伝導体では外部磁場により超伝導の増強が見られる.特にURhGeでは直方晶のb軸方向に磁場を印加した場合,磁場で抑制された超伝導が,9–13.5 Tの高磁場領域で再び現れる.その一方,磁場が強磁性モーメント方向(c軸)成分を少し持つだけで,強固だった超伝導は急激に消えてしまう.ウラン系強磁性超伝導体の超伝導は,印加磁場とその方向によって強められたり抑制されたりし,磁場に対して敏感に変化することが示された.

この特異な上部臨界磁場の振舞いを理解するために,磁場を精密に制御して各軸方向の,電気抵抗や比熱,熱伝導,核磁気共鳴の測定が行われ,強磁性ゆらぎの磁場依存性が調べられた.その結果,強磁性磁気ゆらぎと超伝導に正の相関があることが明らかになった.また強磁性臨界ゆらぎによる超伝導の増強は,最近の一軸圧の実験からも示された.これらの実験結果は,強磁性ゆらぎがスピン三重項超伝導を引き起こしているとする理論モデルでよく理解することができる.ウラン系超伝導体では通常超伝導を抑制するはずの強磁性相互作用により,通常とは異なるスピン三重項超伝導が引き起こされていることが確実となった.

今回のウラン系強磁性超伝導体の研究は,単にウラン化合物の超伝導の問題にとどまらず,磁気ゆらぎを起源とする超伝導や,スピン三重項超伝導を理解する上からも重要な研究内容である.

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