2001 年 56 巻 3 号 p. 169-176
銀河の3次元地図に基づいた宇宙論研究は,観測的宇宙論の主要な方法論であり,現在,日米各国の共同プロジェクトによる大規模銀河サーベイが稼働している.こうした観測データは,宇宙論パラメーターの決定や,構造形成理論の検証を目指す宇宙論研究者にとって貴重な財産となり,宇宙の成り立ち・進化の解明に大きく寄与するものである.しかしながら,その一方,定量的研究を進める上で1つの重要な問題が浮かび上がってくる.それが,銀河分布と暗黒物質の質量分布を結び付ける統計的関係(バイアスと呼ぶ)の不定性である.近年,非線形・確率的バイアスと呼ばれる新たな認識の下,このバイアスを理論的に再考しようという研究が盛んになっている.本稿では,過去の変遷を辿りながら研究の現状について解説し,バイアス研究の宇宙論的意義と今後の行方を考察する.