日本物理学会誌
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超並列計算機CP-PACSが拓く素粒子標準理論研究の新展開
青木 慎也金谷 和至吉江 友照
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2001 年 56 巻 3 号 p. 177-185

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抄録

ハドロン内に閉じ込められているクォークの基本パラメータを精密決定し,CPの破れなどの素粒子標準理論の重要課題を解決するためには,クォークの力学である量子色力学(QCD)を用いてハドロンの物理量を導出することが不可欠である.相互作用の強さのためQCDの非摂動な取り扱いが必要で,現在,格子QCDに基づく数値シミュレーションが唯一の系統的計算法である.しかし,様々な系統誤差を抑えて実験と比較し得る精度で計算を行うために要求される計算量は莫大で,これまでの計算機の能力を越えていた.筑波大学を中心とするグループは,物理学者と計算機工学者の密接な協力のもとに超並列計算機CP-PACSを開発し,その高い演算性能を使って,それまでの計算量の数百倍に相当する大規模な格子シミュレーションを実行した.その計算によって得られた結果は,素粒子標準理論全体の解明に飛躍的な進展をもたらしつつある.特に自然界の基本パラメータのひとつであるクォークの質量に関して,初めて系統的な計算を行った.この記事ではハドロン質量スペクトルやクォーク質量の決定など,CP-PACSによる主要な研究成果を紹介する.

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