Print ISSN : 0016-450X
実驗的肝癌生成過程に於ける白鼠の臟器比重
附.肉腫移植廿日鼠の臟器比重に就て
森 和雄百木 せい子
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1951 年 42 巻 1 号 p. 33-40

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抄録

木下法に從い,白鼠にp-Dimethylaminoazobenzeneを飼與して,実驗的に肝癌を生成する過程において,肝,脾,腎,筋及び脳等の各臟器の比重を,硫酸銅法を用いて測定した。
実驗に先立ち,正常白鼠の臟器比重を測定したところ,上記のいずれの臟器においてもその比重は雄鼠の方が雌鼠よりいくらか高い値を示した。而してこれらの差は肝比重では最も顯著で,雄鼠の肝の平均比重1.088なるに対して,雌鼠では1.084であつた。実驗日数に從つて白鼠を出血死せしめ,先ずその肝所見に應じて肉眼的正常,表面不平滑,肝硬変及び肝癌の4群に動物を分ち,夫々の臟器比重を測り比較檢討した。
これらの臟器の中では肝比重が最も著しい変化を示した。即ち肝比重は,正常鼠では雄1.088雌1.084を示したのが,肝所見の進行と共に雌雄の別なく階段的に下降して,硬変を示す肝では1.067を,肝癌組織では遂に1.060を示すに至つた。肝に次いでかなりの変化を示したのは脾であつて,その比重の値は肝と反対に肝の病変の進行に伴つて軽度ではあるが上昇した。尚軽度ではあるが腎比重は上昇,筋肉比重は下降の傾向を示している。最後に脳比重は殆ど不変であつた。
一方,これら肝及び脾の含水量の測定を行い,水分が実驗の経過に應じて肝では増加,脾では減少の傾向のある事を確めた。これらの結果を類脂体の含有量に関する諸研究者の報告と併せ考える時,肝癌生成過程における臟器比重の変化は,これら日を追うて増加或は減少を示す臟器の水分並びに類脂体の含量に,大いに関係あるものと考える。
尚ほ上記の実驗的肝癌生成過程における大黒鼠の臟器殊に肝並びに脾の比重が実驗の進行と共に著しく変化することと関連して,別に移植性肉腫廿日鼠における臟器比重を檢討した。移植性肉腫としては千葉医大滝沢教授が濃厚果糖溶液の反覆注射により生成した纎維肉腫を用いた。この肉腫の移植率は大体100%陽性で移植片は速かに増殖し平均約2週間前後で2×3×4cm3の大きさに迄達し,ために宿主を死に到らしめる。実驗は移植針を用いて皮下移植された廿日鼠を移植後1日,3日,5日,10日,並びに15日目に出血死せしめ,その臟器小片を切りとり,硫酸銅法を用いて比重を測定した。肝,脾,腎,筋並びに脳の比重を日を追うてしらべた結果,特に肝比重が著しく減少する事がわかつた。他の臟器比重も軽度ではあるが,肉腫の増殖するにつれて,いずれも減少した。又移植陰性を示した動物の臟器比重は正常鼠と肉腫鼠との中間値を示した。

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