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惡性腫瘍に於ける免疫学的現象の研究
吉田肉腫による実驗的研究
長沢 文龍
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1951 年 42 巻 1 号 p. 19-32_2

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抄録

惡性腫瘍における免疫学的現象の観察に最も適当な吉田肉腫を用いて,次の諸項目に就て実驗を行つた。
1.再移植免疫の実驗;第1回の移植により,第2回の移植はその成長を或程度遅延させるが,完全に抑制される事実は認めることは出來ない。
2.腫瘍細胞ワクチンの効果に関する実驗;移植された腫瘍の発育に対して抑制的には作用を示さない。
3.被動性免疫の実驗;自然治癒した動物の血清を用いて,体外で腫瘍細胞に混じても,又は移植後に注入しても腫瘍の発育を著しく阻害することは出來ない。
4.腫瘍細胞の凝集反應;腫瘍動物の血清中には腫瘍細胞に対する凝集素が明に増加することを認める。この現象は今回の実驗中最も顯著な事実に属する。
5.腫瘍細胞抽出液による沈降反應;腫瘍細胞の蒸溜水エキスを腫瘍動物の血清に加えると微弱ながら反應陽性を認める。
6.皮内反應;腫瘍細胞のアルコールエキスを用いて腫瘍動物に1種の皮内反應を発現させることが出來る。反應は移植後6日目以後において最も著明である。
以上の実驗成績から,腫瘍細胞を移植することにより,腫瘍細胞に対する抗体が作られることは明である。そして,抗体は腫瘍の増殖と共に或程度増加することも認められる。併し,その強さは細菌学領域における樣に著しいものでは無いと言わねばならない。
尚ほ,吉田肉踵動物では移植後血糖價が一定の曲線を以て推移し,4日目にはその頂点を示す。この時期には皮内反應は不確実陽性であるが,血糖價と合せて判定すれば,この反應を確実陽性と認めることが出來る。
人癌でも,早期においては概して血糖價の上昇を示す場合が多いと報告されておるから,人体の場合にも皮内反應と同時に血糖價を考慮に入れれば,この反應の判定をより早期に,且つ確実にするだろうと考える。

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