Print ISSN : 0016-450X
42 巻, 1 号
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  • 田頭 勇作, 三宅 健夫, 川野 清子
    1951 年 42 巻 1 号 p. 1-18_2
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    吉田肉腫の細胞学的性格に就いては,單球を母細砲と見る見解が一般に承認されているが,最近濱崎氏は此腫瘍を腹腔上皮腫と見做す見解を発表している。若し此腫瘍が腹腔上皮腫であれば,此腫瘍が腹腔内に遊離して発育し易い性状に対して理解が困難となる。我々の見解によれば單球は血液の細胞であると共に組織の細胞たるの二面性をもつ特有の細胞であり,このことが緑色腫の如き増殖樣式を採るものと解せられる。從て單球に属するならば吉田肉腫は白血病類似の増殖樣式をなさねばならないのであるが,今日迄の研究ではその点は充分吟味されていず,吉田氏は血液内移植により白血性を呈せしめ得ることなく僅に心と腎に轉移竈を作り得たというに反し,木村氏等は50%に近い腫瘍細胞の血液内流出を認めている。しかし兩者の成績の相違は余りに甚しく,我々は是に改めて吉田肉腫の單球としての細胞学的性格を精細に檢索し,併せて血液内移植による探究を行うこととした。
    吉田氏の見解では腹腔内移植の初めは單球型細胞として増殖し,その細胞が日を経て一定の腫瘍粗胞に移りゆくとするのであるが,我々の腹腔内移植の所見よりすれば,成程移植初期の腫瘍細胞は萎縮して小型であり,核にも凹凸が著しい傾向はあるが,しかし腫瘍細胞には特有の大型の核仁が存在し,中性赤ロゼツテも小粒で,帶褐色の色調を呈している点で第II期のものと本質的に異るところはない。そして吉田氏が第I期に増加すると称するものは腹腔常備の乳斑單球が刺戟を受けたためによるものと考えられる。此事は過酸化酵素反應で此種の單球が70∼80%陽牲であることからも裏付けられる。腫瘍細胞は第II期の旺盛な増殖相にある時期に檢した所では,15∼25%程度が本反應陽性である。此所見は白血病患者の諸反應を試みている者の目にとつては決して見逃し難い所見である。其上墨粒の腹腔内注射後24時間の超生体染色所見では,墨粒は中性赤空胞南に吸着し,明かに墨粒貪喰能は陽性である。又暗視野所見で胞体に短い細い,いが粟状の突起が出ているのも一般單球と一致した性質である。尚保温装置の下では胞体の運動をも併せて観察することが出來た。此等の腫瘍細胞の性格は一般に單球,殊に白血病時の單球に酷似してをり,他の如何なる種類の細胞とも似ないものであつて,本腫瘍が單球を母体とするものであることは最早疑問の余地のない所である。而して此樣な單球系の腫瘍が実在することは,Naegeli学派の單球を骨髄芽球の一分化細胞と観る立場を否定し,單球系の独立性を支持するものということが出來る。
    血液内移植においては7∼9日頃に斃れるものが最も多く,屠殺したのは4例であつた。
    最も早く屠殺した3日後例では肉眼的に腫瘤性臟器はなかつたが組織学的に即に全身に種瘍細胞が橋頭堡を作つてをり,殊に淋巴線,肺(小靜脉周囲),腎(腎盂粘膜下,糸毬体局在性),脾,肝(グ鞘),等において判然と認められた。
    6日以後になると肝脾腫が起り,組織学的にも今迄轉移の著明でなかつた肝,脾,骨髄に著明な浸潤が認められ,他臟器を引き離して白血病樣の像に赴いている。即ち肝臟のグ鞘には相当著明な腫瘍浸潤があり,靜脉竇にも次第に充満してゆく。脾では髄索に腫瘍細胞が瀰蔓性に認められ,濾胞は萎縮性となり,遂には該細胞が髄索内に充満する。かかる像は人の急性單球白血病の場合よりも強力な浸潤振である。肺では靜脉に腫瘍の栓塞が多くなり,これを囲んで浮腫,出血も見られる。
    腎ではどの糸毬体にも毛細管内に腫瘍細胞が栓子となつて充満してをり,かかる所見は我々は稀に大型の細胞の單球白血病に見るのみである。淋巴腺所見は以前のままで骨髄では次第に腫瘍の結節を作りつつ浸潤し,遂には骨髄は固有の像を失い腫瘍細胞は細網細胞樣型態で増殖する。
    12日以後では,いずれも肝脾腫は著明でないが,組織像では矢張り全身臟器に腫瘍細胞を認めた。仔細に観ると肝の轉移は殆どグ鞘に限られ,腫瘍細胞も核が濃縮性で胞体が廣く,活氣のない細胞群からなり,又脾臟にも髄索を掩う程の浸潤なく,肺も同樣の限局性の腫瘍轉移竈を認めた。一方淋巴裝置では淋巴腺の高度腫大,胸線周囲並に皮質における腫瘍の増殖を認め,骨髄ではその殆どを腫瘍細胞により占められ,その中の一部は漸く骨梁の圧追萎縮をさへ起さんとしている。
    此所見は要約すれば,肝,脾その他では一旦増殖した腫瘍細胞が直線的な発育を止めて,轉移の位置で守勢を保つているに過ぎないてとを思はせる。強いていへば血液中に抗腫瘍性が生じたともいうべき所見である。しかも淋巴腺,骨髄での直線的増殖は,淋巴腺轉移腫瘍がX線に鈍感であるといわれる点をも考慮すれば,等しく体液的環境でも血液と淋巴とでは甚だしく相違があるというてとが推測され得る。而してこの樣な腫瘍発育の抑制因子は血液中で崩壞し続ける腫瘍に対する抗体が生ずるものとすれば,此事実は若干説明が可能であろう。
  • 吉田肉腫による実驗的研究
    長沢 文龍
    1951 年 42 巻 1 号 p. 19-32_2
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    惡性腫瘍における免疫学的現象の観察に最も適当な吉田肉腫を用いて,次の諸項目に就て実驗を行つた。
    1.再移植免疫の実驗;第1回の移植により,第2回の移植はその成長を或程度遅延させるが,完全に抑制される事実は認めることは出來ない。
    2.腫瘍細胞ワクチンの効果に関する実驗;移植された腫瘍の発育に対して抑制的には作用を示さない。
    3.被動性免疫の実驗;自然治癒した動物の血清を用いて,体外で腫瘍細胞に混じても,又は移植後に注入しても腫瘍の発育を著しく阻害することは出來ない。
    4.腫瘍細胞の凝集反應;腫瘍動物の血清中には腫瘍細胞に対する凝集素が明に増加することを認める。この現象は今回の実驗中最も顯著な事実に属する。
    5.腫瘍細胞抽出液による沈降反應;腫瘍細胞の蒸溜水エキスを腫瘍動物の血清に加えると微弱ながら反應陽性を認める。
    6.皮内反應;腫瘍細胞のアルコールエキスを用いて腫瘍動物に1種の皮内反應を発現させることが出來る。反應は移植後6日目以後において最も著明である。
    以上の実驗成績から,腫瘍細胞を移植することにより,腫瘍細胞に対する抗体が作られることは明である。そして,抗体は腫瘍の増殖と共に或程度増加することも認められる。併し,その強さは細菌学領域における樣に著しいものでは無いと言わねばならない。
    尚ほ,吉田肉踵動物では移植後血糖價が一定の曲線を以て推移し,4日目にはその頂点を示す。この時期には皮内反應は不確実陽性であるが,血糖價と合せて判定すれば,この反應を確実陽性と認めることが出來る。
    人癌でも,早期においては概して血糖價の上昇を示す場合が多いと報告されておるから,人体の場合にも皮内反應と同時に血糖價を考慮に入れれば,この反應の判定をより早期に,且つ確実にするだろうと考える。
  • 附.肉腫移植廿日鼠の臟器比重に就て
    森 和雄, 百木 せい子
    1951 年 42 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    木下法に從い,白鼠にp-Dimethylaminoazobenzeneを飼與して,実驗的に肝癌を生成する過程において,肝,脾,腎,筋及び脳等の各臟器の比重を,硫酸銅法を用いて測定した。
    実驗に先立ち,正常白鼠の臟器比重を測定したところ,上記のいずれの臟器においてもその比重は雄鼠の方が雌鼠よりいくらか高い値を示した。而してこれらの差は肝比重では最も顯著で,雄鼠の肝の平均比重1.088なるに対して,雌鼠では1.084であつた。実驗日数に從つて白鼠を出血死せしめ,先ずその肝所見に應じて肉眼的正常,表面不平滑,肝硬変及び肝癌の4群に動物を分ち,夫々の臟器比重を測り比較檢討した。
    これらの臟器の中では肝比重が最も著しい変化を示した。即ち肝比重は,正常鼠では雄1.088雌1.084を示したのが,肝所見の進行と共に雌雄の別なく階段的に下降して,硬変を示す肝では1.067を,肝癌組織では遂に1.060を示すに至つた。肝に次いでかなりの変化を示したのは脾であつて,その比重の値は肝と反対に肝の病変の進行に伴つて軽度ではあるが上昇した。尚軽度ではあるが腎比重は上昇,筋肉比重は下降の傾向を示している。最後に脳比重は殆ど不変であつた。
    一方,これら肝及び脾の含水量の測定を行い,水分が実驗の経過に應じて肝では増加,脾では減少の傾向のある事を確めた。これらの結果を類脂体の含有量に関する諸研究者の報告と併せ考える時,肝癌生成過程における臟器比重の変化は,これら日を追うて増加或は減少を示す臟器の水分並びに類脂体の含量に,大いに関係あるものと考える。
    尚ほ上記の実驗的肝癌生成過程における大黒鼠の臟器殊に肝並びに脾の比重が実驗の進行と共に著しく変化することと関連して,別に移植性肉腫廿日鼠における臟器比重を檢討した。移植性肉腫としては千葉医大滝沢教授が濃厚果糖溶液の反覆注射により生成した纎維肉腫を用いた。この肉腫の移植率は大体100%陽性で移植片は速かに増殖し平均約2週間前後で2×3×4cm3の大きさに迄達し,ために宿主を死に到らしめる。実驗は移植針を用いて皮下移植された廿日鼠を移植後1日,3日,5日,10日,並びに15日目に出血死せしめ,その臟器小片を切りとり,硫酸銅法を用いて比重を測定した。肝,脾,腎,筋並びに脳の比重を日を追うてしらべた結果,特に肝比重が著しく減少する事がわかつた。他の臟器比重も軽度ではあるが,肉腫の増殖するにつれて,いずれも減少した。又移植陰性を示した動物の臟器比重は正常鼠と肉腫鼠との中間値を示した。
  • 森 和雄, 伊藤 久
    1951 年 42 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    p-Dimethylaminoazobenzene(Butter yellow)を木下法に從い白鼠に飼與して実驗的肝癌を生成する過程における白鼠の肝•腎•脾•筋•脳等の臟器中のアルギニンを日を追うて定量した。臟器は0.5g宛金剛砂で磨碎し,20%塩酸5ccを乃至10cc添加,湯浴上で3時間水解後,中和濾過し,濾液を10倍乃至100倍に薄め,坂口氏反應により5γ/cc規準液と比色定量した。比色にはデュボスク比色計を用いた。
    白鼠の肝所見に從って,肉眼的正常,表面不平滑,肝硬変並に肝癌の各期に分けて夫々の臟器アルギニンを比較したのであるが,肝•腎•筋•脳並に血清アルギニン含最は実驗日数に從って増量し,肝硬変の際に最高値を示し,肝癌となって再び減量した。しかし正常値よりは遙かに増量している。
    唯一の例外は脾アルギニン含量であって,実驗開始後減量しはじめ,肝所見が表面不平滑を示す時期には正常値の3/2を示す程度である。併し肝硬変乃至肝癌の時期には軽度の恢復を示す。
    アルギニンは從來細胞分裂像の多い組織に多く含まれると報告されているが,所謂前癌状態と目される肝硬変の時期に肝臟のみならず他の臟器中にも最高含有量を示すことは,注目に値すると思う。尚脾臟が他の臟器とは反対にそのアルギニン量を減じる事は発癌機構の研究に何等かの示唆を與えるものではあるまいか。
  • 第一報
    岩鶴 龍三, 加藤 績
    1951 年 42 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    著者等は胃癌胃液を家兎に靜脈内へ連続注射する時家兎赤血球数が著減する事実に著眼し之を胃癌診断に應用しようと努力して所謂K.I.K.反應を組みを立てた。本篇にはその実施方法を精細に述べたものでその成績は極めて優秀である。
  • 第二報
    岩鶴 龍三, 加藤 績
    1951 年 42 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    著者等は胃癌胃液を家兎靜脈内に注射して貧血を惹起せしむる,所謂KIK反應を追試して之を確認し,第一報としてその方法を述べたが,更に胃癌胃液を透析した後,濃縮し,メタノールで沈澱せしめ,更に此の沈澱を生理的食塩水にとかして家兎皮下に注射する時,同樣に催貧血作用を示すを確認した。それで之を胃癌の診断に用い得る樣,方式を考按し,その成績を述べるものである。
  • 福岡 文子, 中原 和郎
    1951 年 42 巻 1 号 p. 55-68
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1948年我々は初めて人の惡性腫瘍よりマウスの肝臟カタラーゼ作用を,顯著に減少せしめる物質即ち,化学的には耐熱性で,熱に凝固せず,エーテルに不溶,水によく溶け,アルコールに沈澱する物質を分離し,之をトキソホルモンとなづけた。
    この仕事は1950年Greenfield及Meisterにより動物腫瘍を用いて追証されている。我々は更にこれを銅塩で沈澱せしめて精製して,この物質はポリペプチードであろうと推定しているが,之を化学的純物質として取り出す事は極めて困難であると思われる。
    本文にはトキソホルモンの作用機序に関する新知見を報告した。
    このカタラーゼの減弱は飼料に肝粉,血粉或は塩化第二鉄を過剰に添加する事により防止しうる。この事実は移植腫瘍を持つマウス,健康マウスにトキソホルモンを注射した場合はもとより,トキソホルモンと塩化第二鉄を混じて注射した場合にもいづれも同じく証明された。
    トキソホルモンの作用機序を考察するに,直接カタラーゼを破壞或はその作用を阻害するものではなく,合成の阻害である事はすでに推定されているが,我々の新知見において,トキソホルモンは鉄と優先的に結合する事によつて,カタラーゼの合成を阻害するのではないかという考えに到達する。この考えが正しければ,鉄を作用基とする他の酵素系もトキソホルモンの影響を受けるのではないかという問題を提供する事になる。
  • 岸 三二, 春野 勝彦
    1951 年 42 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    バターイエロー投與100日以上経過した白鼠の肝の病変度を肉眼的に観察して区分し,夫々について酵素作用を調べた。その区分は肉眼的正常,表面不平滑,硬変及び肝癌で,尚これに肝癌生成肝の非癌部の硬変を加えた。対照に普通食(白米)の白鼠の肝と肝癌生成阻止物質である牛肝投與白鼠の肝を採った。
    酵素液(グリセリン抽出液)と基質を混じ一定時間孵卵器中に放置し,エステラーゼの場合は中和するに要する0.1NのNaOHのcc数で活性度を表し,カテプシンの場合はフォルモール滴定により,その活性度を0.1NのNaOHのcc数で示した。
    エステラーゼ作用はバターイエロー投與により肉眼的変化が表われる時期に作用が下り,硬変期は同樣な値を示し,肝癌は更に顯著に低下している事が認められた。尚対照の内牛肝投與のものは普通食のものよりエステラーゼ作用の大なる事が認められるが,この事実と肝癌阻止作用との関連性は不明である。
    カテプシン作用はバターイエロー投與により正常より増し肝癌生成されるに及んで顯著に活性を減ずる,その時は正常よりも更に低い,カテプシンのチステインに依る賦活作用は正常肝と肝癌に認められるが,バターイエロー投與動物の肝(肝癌を除く)の肉眼的変化のない肝や硬変の肝には明らかでない。
    対照にとった正常のうち牛肝投與と普通食の白鼠肝のカテプシン作用は前者が稍大である。賦活後にもその差異は認められる。
    尚正常肝の酵素液にin vitroでバターイエローを添加した実驗ではエステラーゼ及びカテプシンともに元の酵素液と作用の差異は認められなかった。
  • 岸 三二, 佐藤 永雄, 浅野 文一
    1951 年 42 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    蛋白分子中のS-S結合は分子の一定の形態を維持することに一役を担っていると考えられるので,実驗的肝癌生成過程における肝蛋白のS量の消長を知ることにより,正常組織の惡性化への蛋白の形態的変化を窮知し得るものかと本実驗を行った。
    白鼠にバターイエローを投與し100日以上経過したものを殺し,肝を肉眼的に観察してその病変度により5組に分類し,対照動物には普通食(白米)の正常白鼠の肝と牛肝末投與40日の白鼠の肝の組を選んだ。
    新鮮組織を粥状となし除濕器中に減圧乾燥後摺って粉末とし,これを熱アルコールで処理したものにつきSを定量(リービヒードメニール法)した。また同一粉末のNを定量(ミクロキールダール法)し,S/Nの比を得て各組ごとの平均値を檢討した。
    バターイエロー投與により肝蛋白のS/Nは普通食の正常白鼠の肝より顯著に小となるが病変が肉眼的に認められるに至って大となり,肝癌結節の明らかに存在する肝の非癌性部(硬変)では更に大となり,白米食白鼠の肝と数値は近似する。而して肝癌は最大値を示した。対照の一つである白米に牛肝末添加投與の白鼠肝は最小値を示した。この顯著な事実と牛肝末の肝癌抑制作用との関連性は現在説明できないが,食物中にもし易く吸收され同化されるS化合物の或量が添加されればアゾ色素投與による肝癌生成に何等か影響あるものと想像される。諸学者の行った含Sアミノ酸投與の研究が想起される。尚肝蛋白N量は病変の亢進に平衡して増加するという明らかな結果が得られた。
  • 田中 達也
    1951 年 42 巻 1 号 p. 81-85_1
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    現在迄の癌の細胞学的研究は,主に固定材料を以てするパラフィン切片法に依って行われて來たが,この方法は実施上その操作が非常に煩雜であり,時間的にも不経済で,また体細胞ことに癌細胞のように非常に緻密な構造をもつ組織細胞の染色体固定には幾多の困難が存在し,固定液の選定と使用法に経驗を必要としなければならない。この技術上の煩雜が癌の細胞学的研究の発展に非常な障害となっていることは,何人も等しく認めるところであろう。ここに塗抹法とか,押しつぶし法のような実施に時間のかからない簡單なテクニックの應用が考えられる所以である。
    筆者は吉田肉腫にアセトカーミン法を應用してその染色体を観察しているが,この仕事に從事している間に,間質が液状である吉田肉腫の染色体が非常によく氷醋酸で固定されることにヒントを得て,他の組織においても固定後,間質を軟解することが出來れば,体細胞のような緻密な組織細胞にも押しつぶし法が適用出來るように思われた。そして主にラッテの胎兒の各種組織細胞とアゾ肝癌を用いて実驗した後,染色体を観察するのに簡便なこの方法を考案した。
    固定液はアルコールと氷醋酸を3:1の割合に混合したものが最も良好である。固定後10%氷醋酸に5分,次に50%氷醋酸に20∼40分処理して固定の爲硬化した組織を軟解する。そして,次の染色液の何れか一つによって染色する。(Aceto-orcein, Aceto-lackmoid, Aceto-gentianviolet)。染色後,組織片をスライドの上に取り,数片にきさんでからカバーグラスを上からかけて押しつぶし,余分の染色液を吸引の後カバーグラスの周辺を,バルサムパラフィンで封じて直に檢鏡出來る。
    この方法は簡單な試藥を以て短い時間で仕上げることが出來,パラフィン法における細胞の收縮が最小限に止めることが出來るので,染色体は切片材料で見ることが出來ない程大きく観察が非常に樂である。染色体は幾分太目にはなるが,輪廓はシャープで観察に支障はない。尚,この実驗中に考案したAceto-gentianvioletは,新鮮材料の塗抹標本にアセトカーミンの代用として良好なる結果を示すことを附記する。
  • 牧野 佐二郎
    1951 年 42 巻 1 号 p. 87-90_1
    発行日: 1951/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    吉田肉腫の腫瘍細胞における異常分裂の出現頻度ならびに細胞分裂頻度の統計的調査の結果から著者は,吉田肉腫には40内外のほぼ一定した染色体数をもち,且特殊な核型(宿主のシロネズミのそれとは著しく異った)をもった一連の腫瘍細胞があって,これらが腫瘍の惡性増殖にあたって第一次的に重要な役割を演じているということを明らかにした(日本遺傳学会第22回大会発表,1950年10月)。吉田肉腫はシロネズミに特有な腫瘍であるが,シロネズミ以外の近縁動物に移植を行った場合における腫瘍細胞の染色体の状態を知ることは,上にのべた知見を檢討する上に重要である。クマネズミ,ハツカネズミ,ヒメネズミ,エゾヤチネズミ及びテンヂクネズミ(モルモット)の腹腔に移植したシロネズミの吉田肉腫細胞は,これら異種動物の腹腔内で,いづれも或る期間生活し,少数ながら分裂した。これらの細胞において染色体をしらべると,シロネズミに累代移植を行った腫瘍細胞におけるものと,染色体数においても核型においても何等変る所をみない。第2-3図はウイスター系シロネズミ(Rattus norvegicus)に累代移植の腫瘍細胞における染色体の一例で,第4-9図は夫々クマネズミ(R. rattus,第4図),ハツカネズミ(Mus musculus,第5-6図),ヒメネズミ(Apodemus geisha,第7図),エゾヤチネズミ(Clethrionomys bodfordiae,第8図)及びテンヂクネズミ(Cavia cobaya,第9図)に移植された腫瘍細胞において観察した染色体である。シロネズミ移植と異種移植の間においても,又異種移植同志の間においても,その間に染色体数に或は核型に何等の相違を発見し得ない。凡ての場合,一樣な染色体構成が認められる。
    これらの結果から,異種移植において異種の宿主の体内に或る期間増殖する腫瘍細胞は,もとのシロネズミの腫瘍細胞に由來したものであることは疑問の余地がない。尚又これらの事実はシロネズミにおいて累代移植に当って腫瘍の増殖に一次的な役割を果すものは,ほぼ一定した染色体数と特殊な核型をもった一連の腫瘍細胞であるという知見を裏書するものである。腫瘍増殖の期間に出現する,いろいろな種類の異常細胞は,これら一連の根幹細胞が,或る原因によつて変性して生じたものであることは別の実驗によって明らかにされている所である。以上の詳細は他日公表する。
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