Print ISSN : 0016-450X
哺乳動物の体細胞ならびに腫瘍細胞の染色体研究に用いられる簡單なる"押しつぶし法"
田中 達也
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1951 年 42 巻 1 号 p. 81-85_1

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抄録

現在迄の癌の細胞学的研究は,主に固定材料を以てするパラフィン切片法に依って行われて來たが,この方法は実施上その操作が非常に煩雜であり,時間的にも不経済で,また体細胞ことに癌細胞のように非常に緻密な構造をもつ組織細胞の染色体固定には幾多の困難が存在し,固定液の選定と使用法に経驗を必要としなければならない。この技術上の煩雜が癌の細胞学的研究の発展に非常な障害となっていることは,何人も等しく認めるところであろう。ここに塗抹法とか,押しつぶし法のような実施に時間のかからない簡單なテクニックの應用が考えられる所以である。
筆者は吉田肉腫にアセトカーミン法を應用してその染色体を観察しているが,この仕事に從事している間に,間質が液状である吉田肉腫の染色体が非常によく氷醋酸で固定されることにヒントを得て,他の組織においても固定後,間質を軟解することが出來れば,体細胞のような緻密な組織細胞にも押しつぶし法が適用出來るように思われた。そして主にラッテの胎兒の各種組織細胞とアゾ肝癌を用いて実驗した後,染色体を観察するのに簡便なこの方法を考案した。
固定液はアルコールと氷醋酸を3:1の割合に混合したものが最も良好である。固定後10%氷醋酸に5分,次に50%氷醋酸に20∼40分処理して固定の爲硬化した組織を軟解する。そして,次の染色液の何れか一つによって染色する。(Aceto-orcein, Aceto-lackmoid, Aceto-gentianviolet)。染色後,組織片をスライドの上に取り,数片にきさんでからカバーグラスを上からかけて押しつぶし,余分の染色液を吸引の後カバーグラスの周辺を,バルサムパラフィンで封じて直に檢鏡出來る。
この方法は簡單な試藥を以て短い時間で仕上げることが出來,パラフィン法における細胞の收縮が最小限に止めることが出來るので,染色体は切片材料で見ることが出來ない程大きく観察が非常に樂である。染色体は幾分太目にはなるが,輪廓はシャープで観察に支障はない。尚,この実驗中に考案したAceto-gentianvioletは,新鮮材料の塗抹標本にアセトカーミンの代用として良好なる結果を示すことを附記する。

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