Print ISSN : 0016-450X
異種移植をした吉田肉腫における染色体研究
牧野 佐二郎
著者情報
ジャーナル フリー

1951 年 42 巻 1 号 p. 87-90_1

詳細
抄録

吉田肉腫の腫瘍細胞における異常分裂の出現頻度ならびに細胞分裂頻度の統計的調査の結果から著者は,吉田肉腫には40内外のほぼ一定した染色体数をもち,且特殊な核型(宿主のシロネズミのそれとは著しく異った)をもった一連の腫瘍細胞があって,これらが腫瘍の惡性増殖にあたって第一次的に重要な役割を演じているということを明らかにした(日本遺傳学会第22回大会発表,1950年10月)。吉田肉腫はシロネズミに特有な腫瘍であるが,シロネズミ以外の近縁動物に移植を行った場合における腫瘍細胞の染色体の状態を知ることは,上にのべた知見を檢討する上に重要である。クマネズミ,ハツカネズミ,ヒメネズミ,エゾヤチネズミ及びテンヂクネズミ(モルモット)の腹腔に移植したシロネズミの吉田肉腫細胞は,これら異種動物の腹腔内で,いづれも或る期間生活し,少数ながら分裂した。これらの細胞において染色体をしらべると,シロネズミに累代移植を行った腫瘍細胞におけるものと,染色体数においても核型においても何等変る所をみない。第2-3図はウイスター系シロネズミ(Rattus norvegicus)に累代移植の腫瘍細胞における染色体の一例で,第4-9図は夫々クマネズミ(R. rattus,第4図),ハツカネズミ(Mus musculus,第5-6図),ヒメネズミ(Apodemus geisha,第7図),エゾヤチネズミ(Clethrionomys bodfordiae,第8図)及びテンヂクネズミ(Cavia cobaya,第9図)に移植された腫瘍細胞において観察した染色体である。シロネズミ移植と異種移植の間においても,又異種移植同志の間においても,その間に染色体数に或は核型に何等の相違を発見し得ない。凡ての場合,一樣な染色体構成が認められる。
これらの結果から,異種移植において異種の宿主の体内に或る期間増殖する腫瘍細胞は,もとのシロネズミの腫瘍細胞に由來したものであることは疑問の余地がない。尚又これらの事実はシロネズミにおいて累代移植に当って腫瘍の増殖に一次的な役割を果すものは,ほぼ一定した染色体数と特殊な核型をもった一連の腫瘍細胞であるという知見を裏書するものである。腫瘍増殖の期間に出現する,いろいろな種類の異常細胞は,これら一連の根幹細胞が,或る原因によつて変性して生じたものであることは別の実驗によって明らかにされている所である。以上の詳細は他日公表する。

著者関連情報
© 日本癌学会
前の記事
feedback
Top