Print ISSN : 0016-450X
癌の細胞学的研究
第III報吉田肉腫腫瘍の生長に関與する腫瘍細胞の核学的特性ならびに固有性
牧野 佐二郎
著者情報
ジャーナル フリー

1952 年 43 巻 1 号 p. 17-34_3

詳細
抄録

第I報及び第II報においてなされた腫瘍細胞の移植一世代を通じての分裂ならびに染色体に関する基礎的調査の結果からして,吉田肉腫の移植一世代における腫瘍細胞の増殖には,正規な分裂行動をとり,二倍数に近い染色体数をもった一群の細胞が主休となっていることが明らかになった。それらの細胞はシロネズミの体細胞とは明らかに異る固有の,しかも一定した核型をもっている。即ち,シロネズミの体細胞は42個の棒状染色体をもっているが,これらの腫瘍細胞は40前後の染色体数をもち,22∼24個の棒状染色体と,16∼18個のJ型ならびにV型の染色休より成る核型をもっている。このように吉田肉腫には腫瘍固有の染色体型をもった腫瘍細胞の一群の種族があって,それらの細胞の固有性は累代移植を通じて変化することなく保たれ,連綿として細胞から細胞えと傳えられる。この腫瘍細胞の固有性はシロネズミ以外の動物に異種移植した場合にも変化しない。腫瘍の生長に第一義的に主要な役割をなすものは,これらの一群の腫瘍細胞の種族であって,宿主の組織細胞が一時的にそれに與っているものではない。そのことは,累代移植の如何なる時期の腫瘍細胞においても,異種移植の場合においても,また如何なる個体からとった材料においても,腫瘍細胞が常に一定の而も特有の核型をもっていることから,自ら明らかである。吉田肉腫において累代移植の源をなすものは,腫瘍細胞として変化をうけた一群の細胞の種族であって他の何物でもない。これらの細胞は,恐らくこの種瘍がつくり出される過程において,何等かの原因によりシロネズミの或る組織細胞が変化を起して生じたものであって,病的な自律性を獲得し,一群の腫瘍細胞の種族として発達したものであろう。これらの細胞種族は種族保存の能力を有し,累代移植においてその固有性を保持するばかりでなく,各種の化学藥品とかX線などに対しても強い抵抗性を有し,たとえそれらによって処理をうけても,少数の種族細胞は破壞を免かれて生存し,再び腫瘍を再発する。吉田肉腫にも他の腫瘍と同じく,腫瘍細胞にはいろいろな種類の分裂の異常が発見される。これらの異常分裂は種族細胞の或るものが変性して生じた結果である。異常分裂をして核内容の異常となった細胞は早晩滅の運命にあるもので,永く分裂を継続する可能性はないから,癌のように急激に生長するものにはそれに與って重要な役割を演ずるものとは考えられない。

著者関連情報
© 日本癌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top