Print ISSN : 0016-450X
43 巻, 1 号
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  • 一個の細胞から増殖した腫瘍細胞についての観察
    佐藤 春郎
    1952 年 43 巻 1 号 p. 1-16_8
    発行日: 1952/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    一個の吉田肉腫細胞を白ねずみの腹腔内に移植し,それから増殖した腫瘍細胞の染色体を描画して,数及び形の研究を行つた。
    1) 数には最小29から最多102迄,非常に幅の廣い変動がみられた。大部分は白ねずみ精細胞の染色体の常数である42を中心として,35から50迄の間の数を示している。しかし数は移植後のどの時期にも一定しない。即ち1個からしふやてみても,その子孫の細胞の染色体数に変動が起る。
    2) 染色体の形について最も大きな事実は,V型の染色体の出現である。白ねずみ精細胞の染色体は全部棒状で,このような形のものは記載されていない。從ってこれは腫瘍細胞に特長的なものである。V型は100個の中42の核板にみられた。V型には染色体を大きさの順に配列した場合に順列の中央以上に並ぶ大型と,以下に並ぶ小型のものとがある。大小のV型を併せ持つものも少数あるが,大部分は何れか1ヶのものが多い。又V型は腫瘍成長のどの時期にもみられる。染色体数35以下又に50以上というようなものには,V型の出現は少いが,35から50迄の染色体数のものには,V型をもつものともたないものがどの数の所にもあり,特に染色体数いくつのものにV型があるという特定の関係はみとめられない。
    一個の細胞からふやした子孫の細胞にもV型をもつものともたぬものがあり,且つその出現は約40%であるという結果から,V型を有する特定の細胞系統を設定して,V型を有しないものを変性或は変則的なものと判断することは困難である。
  • 第III報吉田肉腫腫瘍の生長に関與する腫瘍細胞の核学的特性ならびに固有性
    牧野 佐二郎
    1952 年 43 巻 1 号 p. 17-34_3
    発行日: 1952/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    第I報及び第II報においてなされた腫瘍細胞の移植一世代を通じての分裂ならびに染色体に関する基礎的調査の結果からして,吉田肉腫の移植一世代における腫瘍細胞の増殖には,正規な分裂行動をとり,二倍数に近い染色体数をもった一群の細胞が主休となっていることが明らかになった。それらの細胞はシロネズミの体細胞とは明らかに異る固有の,しかも一定した核型をもっている。即ち,シロネズミの体細胞は42個の棒状染色体をもっているが,これらの腫瘍細胞は40前後の染色体数をもち,22∼24個の棒状染色体と,16∼18個のJ型ならびにV型の染色休より成る核型をもっている。このように吉田肉腫には腫瘍固有の染色体型をもった腫瘍細胞の一群の種族があって,それらの細胞の固有性は累代移植を通じて変化することなく保たれ,連綿として細胞から細胞えと傳えられる。この腫瘍細胞の固有性はシロネズミ以外の動物に異種移植した場合にも変化しない。腫瘍の生長に第一義的に主要な役割をなすものは,これらの一群の腫瘍細胞の種族であって,宿主の組織細胞が一時的にそれに與っているものではない。そのことは,累代移植の如何なる時期の腫瘍細胞においても,異種移植の場合においても,また如何なる個体からとった材料においても,腫瘍細胞が常に一定の而も特有の核型をもっていることから,自ら明らかである。吉田肉腫において累代移植の源をなすものは,腫瘍細胞として変化をうけた一群の細胞の種族であって他の何物でもない。これらの細胞は,恐らくこの種瘍がつくり出される過程において,何等かの原因によりシロネズミの或る組織細胞が変化を起して生じたものであって,病的な自律性を獲得し,一群の腫瘍細胞の種族として発達したものであろう。これらの細胞種族は種族保存の能力を有し,累代移植においてその固有性を保持するばかりでなく,各種の化学藥品とかX線などに対しても強い抵抗性を有し,たとえそれらによって処理をうけても,少数の種族細胞は破壞を免かれて生存し,再び腫瘍を再発する。吉田肉腫にも他の腫瘍と同じく,腫瘍細胞にはいろいろな種類の分裂の異常が発見される。これらの異常分裂は種族細胞の或るものが変性して生じた結果である。異常分裂をして核内容の異常となった細胞は早晩滅の運命にあるもので,永く分裂を継続する可能性はないから,癌のように急激に生長するものにはそれに與って重要な役割を演ずるものとは考えられない。
  • 第V報.吉田肉腫の異種移植,特に腫瘍細胞の行動について
    吉田 俊秀
    1952 年 43 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 1952/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    吉田肉腫を2頭のクマネズミ(Rattus rattus),4頭のハツカネズミ(Mus musculus),1頭のヒメネズミ(Apodemus geisha),1頭のヱゾヤチネズミ(Clethrionomys bedfordiae),3頭のテンヂクネズミ(Cavia cabaya),2頭のシマリス(Eutamias asiaticus lineatus),2頭のウサギ(Lupus cuniculus domesticus),1頭のネコ(Felis domestica),1羽のニワトリ(Gallus gallus domesticus)の腹腔内に移植して,腫瘍細胞の行動を追求した。
    異種の動物は,いかなる種類でも吉田肉腫によって死亡することはない。しかしながら,クマネズミ,ハツカネズミ,ヒメネズミ,ヱゾヤチネズミ及びテンジクネズミの5種の動物に対しては,ある一定の期間だけ,あたかも同種移植(シロネズミへの移植)の場合の如く,腫瘍細胞は分裂増殖を示した。その他の種類の動物における腫瘍細胞の行動等から,一般的に吉田肉腫細胞の異種動物に対する親和性は,動物の類縁関係と密接な関係のあることがわかった。
    腫瘍細胞の分裂増殖をみた5種の動物において,細胞分裂の出現頻度を調べてみた。一般的にいうと,分裂像の出現率は同種移植よりも異種移植の場合の方が高頻度となって表われている。これは異種移植の場合の方が中期核分裂像の出現率が高いためであった。
    次に腫瘍胞細の異常性を比較研究した。一般に分裂型細胞の出現率は同種移植の場合の方が高く,これに反して,異常型は異種移植の方が高くなっている。崩壞型は動物の種類によって夫々差異がある。これら異常性の出現率を移植後の経過日数によって調べてみると,その変化の傾向は異種移植及び同種移植の両者の場合において著しい差異はない。即ち,分裂型は初期から中期にかけて高く,後期において著しく低くなっている。これに反して崩壞型は後期に著しく高くなっている。異常型は日によって余り顯著なる上下はない。
  • 伊藤 秦二
    1952 年 43 巻 1 号 p. 45-48_2
    発行日: 1952/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は67才男子。終末時排尿痛,陰莖,会陰部等に枚散する下腹部痛を主訴として來院。血尿,尿線異常等はこれを認めなかった。直腸診で前立腺右葉は硬靱に触れ,しかも余り増大しておらず,癌腫を疑わしめ,更に膀胱鏡的に膀胱頂部にも腫瘍を認めた。膀胱全剔除術により膀胱,前立腺,精嚢を一塊として剔出し両側尿管をS状腸に吻合した。剔除標本を病理学的に檢査して見た所,前立線右葉の硬靱な部分は明瞭な腺癌の像を示し,膀胱頂部の小指頭大の腫瘍は單純癌(移行細胞癌)であった。更に標本を廣範囲に亘り檢索した結果,後者では前癌性変化に陥った粘膜上皮群からの移行像を証明し,前立腺癌とは明かに別個に無関係に發生していることを確め得た。本症例の如き前立腺癌に膀胱癌の併發例は本邦においては未だその報告をみていない。
  • 岩鶴 龍三, 加藤 績, 谷口 進, 玉置 治彦, 由谷 勇雄, 金川 頼央
    1952 年 43 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 1952/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    我々は,胃癌患者胃液中のK.I.K.因子の性状に関して,次の事実を認めた。即ち,この因子は,1.透析されない。2.耐熱性である。3.水溶性,エーテルに不溶。4.スルフオサリチル酸等の蛋白沈澱剤によって沈澱し,また,硫酸アンモンの半飽和によるも,完全飽和によるも沈澱する。5.酸性溶液においてカオリンに吸着され,アルカリ性にすれば離される。6.パンクレアチンで消化すると,作用が失われる。
  • 福岡 文子, 中原 和郎
    1952 年 43 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 1952/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    担癌マウス及びラッテにおいて胸腺の顯著な退縮が見られるが,それと同程度の変化がトキソホルモン濃縮物の適量の一回注射で正常マウスに起ることを見付けた。
    担癌動物の胸腺退縮は副腎の肥大を伴っている点から,stressに対する適應反應と関係をつけようとしている学者もあるが,我々の使用したマウス肉腫では,胸腺退縮の著しいにかかわらず,副腎の肥大はすこぶる微弱で問題にし難い。殊にトキソホルモン注射により胸腺は著明に退縮するのに,副腎は殆んど変らない点から見て,この兩者は密接な相関々係にあるものとは考えられない。
    胸腺の退縮は一般に動物体の種々な不良な状態と関連していて,トキソホルモンによる場合も恐らく体蛋白の消耗を示すものと思われる。トキソホルモンによって起る肝細胞機能の障害が,不利な蛋白代謝を招き,終局において惡液質の状態まで進行することは推測に難くない。胸腺の退縮はその第一歩を表徴すると解釈出來る。
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