Print ISSN : 0016-450X
醋酸添加飼料による白鼠の前胃変化生成について
森 和雄
著者情報
ジャーナル フリー

1952 年 43 巻 4 号 p. 443-447_1

詳細
抄録

白米に5%の割合で氷醋酸を添加した飼料で,白鼠を飼養すると前胃粘膜上皮の増生及び角化,乳嘴腫様変化並びに潰瘍等が生成されることがわかった。即ち醋酸飼与30日以上を経た白鼠の前胃壁は一体に肥厚し透明度を減じ,処により著しく肥厚している。しかして灰白色あるいは白色で中心に紅褐色の斑点としてみえる陷落部を伴った乳嘴腫様突起が散在性にみられる。
顕微鏡的には肥厚した上皮細胞の増殖による乳嘴腫様変化で最上層の角化が著しい。そしてしばしば肥厚した上皮は筋肉層内へ侵入し異所的増殖の像を示し,その部分には多くの核分裂像をみとめることが出来る。多くの場合,乳嘴腫様変化の一部は崩壊欠如し,潰瘍を形成している。
これらの変化は実験日数30日で早くも出現し始めるが,200日程度の時日を経ても乳嘴腫様変化の増殖以外に特記すべき進行性の変化はみられなかった。
従来多くの研究者によって種々の化学物質を用いて,動物の胃に腫瘍あるいは腫瘍様変化をもたらした業績が発表され,殊に杉浦博士はそれらを綜説的にまとめられた。一方Salmon並びにCopelandは多量のtrybutyrinを飼料に添加し,白鼠の前胃に乳嘴腫を惹起せしめた。この研究室においても彼等と全く独立した見解から酪酸飼与実験を繰返した。酪酸飼与による白鼠の前胃変化は,上記の醋酸の場合によく似ている。しかし酪酸の場合に多くみられるkeratin cystは,本実験では全く出現せずに,むしろ潰瘍の生成が普通であった。
このような低級脂肪酸群中,酪酸並に醋酸の影響が著明である事から,更にプロピオン酸の作用が当然研究の対象となってくるが,実験は目下進行中である。

著者関連情報
© 日本癌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top