Print ISSN : 0016-450X
腫瘍の細胞学的研究
XIII. シロネズミ腹水肝癌の構造と増殖
田中 達也加納 恭子
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1954 年 45 巻 1 号 p. 1-8_1

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抄録

著者等は過去数年来発癌過程とおける組織細胞内に生ずる核学的変化を研究中であるが, この目的のために著者の一人, 田中 (1952) はシロネズミ (Rattus norvegicus) にアゾ色素 (o-Aminoazotoluene, および p-Dimethylaminoazobenzene) を投与し, その発癌過程における染色体の変化を細胞学的に調査した。しかしながら, ここに得られた結果は, 多くの実験動物に観察された集成的結果であり, 肝癌細胞の詳細な核型の調査は, 当然1系統の肝癌系について連続的に研究を進める必要がある。従つてもしアゾ色素投与によつて生じた肝癌を腹水系に置換することができれば, 移植操作, ならびに染色体の連続調査を極めて容易に実施することができるので, アゾ肝癌の腹水系への置換を試みた。この結果新に2系統の腹水肝癌系の確立を認めた (田中, 加納1952)。この研究は, かくして得られた腹水肝癌の一般構造, 竝にその増殖過程の観察結果である。
腹水肝癌は構造的にみて, 細胞起原を異にする2種の細胞, すなわち肝癌細胞と内皮細胞とによつて構成された1箇の細胞集団である。内皮細胞は, 肝癌細胞の周辺部を囲繞して存在し, その細胞形態は原形質のアメーバー状運動, 墨粒貪食能, ならびに位相差顕微鏡下における高度の屈折率等により明暸に識別することができる。肝癌島の形態は, 主として球状であるが, 移植後の腫瘍成長の度合によつて球状, 索状あるいは葡萄状など種々の形態的変異が観察される。肝癌島の増加は, 移植後に生ずる島の分解遊離, 及び毋肝癌島の自然的切断によつて生ずる。
腫瘍腹水の中には上記肝癌島の外, 腹水中に単独で浮遊する自由遊離細胞が観察される。かかる自由遊離細胞は肝癌島の分解遊離, あるいは毋肝癌島よりの遊離脱落によつて生ずるものであつて, 移植後2~3日において特に顕著に観察することができる。自由遊離細胞の分裂像もまたこの期間にしばしば観察されるが, その大部会は分裂の途中において変性退行の傾向を示す。
以上の観察結果に基いて, 腹水肝癌は, その構成細胞である肝癌細胞と内皮細胞との密接なる結合状態において, 正常の機態を営むものであり, かつまた肝癌島内の細胞相互の結合は,細胞表面の物理化学的組織親和性に基因するものと考えられる。

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