Print ISSN : 0016-450X
45 巻, 1 号
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  • XIII. シロネズミ腹水肝癌の構造と増殖
    田中 達也, 加納 恭子
    1954 年 45 巻 1 号 p. 1-8_1
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    著者等は過去数年来発癌過程とおける組織細胞内に生ずる核学的変化を研究中であるが, この目的のために著者の一人, 田中 (1952) はシロネズミ (Rattus norvegicus) にアゾ色素 (o-Aminoazotoluene, および p-Dimethylaminoazobenzene) を投与し, その発癌過程における染色体の変化を細胞学的に調査した。しかしながら, ここに得られた結果は, 多くの実験動物に観察された集成的結果であり, 肝癌細胞の詳細な核型の調査は, 当然1系統の肝癌系について連続的に研究を進める必要がある。従つてもしアゾ色素投与によつて生じた肝癌を腹水系に置換することができれば, 移植操作, ならびに染色体の連続調査を極めて容易に実施することができるので, アゾ肝癌の腹水系への置換を試みた。この結果新に2系統の腹水肝癌系の確立を認めた (田中, 加納1952)。この研究は, かくして得られた腹水肝癌の一般構造, 竝にその増殖過程の観察結果である。
    腹水肝癌は構造的にみて, 細胞起原を異にする2種の細胞, すなわち肝癌細胞と内皮細胞とによつて構成された1箇の細胞集団である。内皮細胞は, 肝癌細胞の周辺部を囲繞して存在し, その細胞形態は原形質のアメーバー状運動, 墨粒貪食能, ならびに位相差顕微鏡下における高度の屈折率等により明暸に識別することができる。肝癌島の形態は, 主として球状であるが, 移植後の腫瘍成長の度合によつて球状, 索状あるいは葡萄状など種々の形態的変異が観察される。肝癌島の増加は, 移植後に生ずる島の分解遊離, 及び毋肝癌島の自然的切断によつて生ずる。
    腫瘍腹水の中には上記肝癌島の外, 腹水中に単独で浮遊する自由遊離細胞が観察される。かかる自由遊離細胞は肝癌島の分解遊離, あるいは毋肝癌島よりの遊離脱落によつて生ずるものであつて, 移植後2~3日において特に顕著に観察することができる。自由遊離細胞の分裂像もまたこの期間にしばしば観察されるが, その大部会は分裂の途中において変性退行の傾向を示す。
    以上の観察結果に基いて, 腹水肝癌は, その構成細胞である肝癌細胞と内皮細胞との密接なる結合状態において, 正常の機態を営むものであり, かつまた肝癌島内の細胞相互の結合は,細胞表面の物理化学的組織親和性に基因するものと考えられる。
  • 吉田 俊秀
    1954 年 45 巻 1 号 p. 9-15_3
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    武田肉腫とはラットにおける腹水性腫瘍の一系統である。この腫瘍は四倍性の細胞が多く, 観察された (A) 固体では83.4%, (B) 個体では70.5%が四倍性であつた。これらの結果から, 武田肉腫の種族細胞は四倍性であると考えられる。四倍性細胞の染色体数を詳細に調べてみると, ラットの染色体数の倍数である84前後のものが最も多い。次に各染色体の形態を詳細に調べてみたところ, 通常の棒状染色体の外に, 小型のVあるいはJ字形染色体が19から24個, 大型のV字形染色体が1個あるいは2個観察され, しかも核型分析をされた多くの細胞には大型のJ字形染色体が1個観察された。大型のJ字形染色体は正常マウスの体細胞や他の二倍性腹水腫瘍 (例えば吉田肉腫, MTK肉腫等) には観察されない, 武田肉腫の種族細胞における核学的特異性であると考えられた。
  • 牧野 佐二郎, 金久 武晴
    1954 年 45 巻 1 号 p. 17-22_1
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    1. 猩々蠅の腫瘍の研究は, 現在まで, 黄色猩々蠅における種々なる腫瘍系統を用いて行われて来た。著者は1950年に, 北海道札幌市郊外円山において採集した猩々蠅の集団中より黒猩々蠅のメラニン様腫瘍を見出したので, これについて形態学的及び遺伝学的の研究を始めた。
    2. この腫瘍は良性のもので, 大きさや形はさまざまである。主として中胸背部, 小循板部, 側胸部, 及び頭部に現われる。また, 外部的には羽化後10日から20日の間に出現する。この点において“tuh”を除く黄色猩々蠅の各腫瘍系統にみられるものとは異つている。また, 腫瘍はメラニン様色素の集成体として現われるもので, この点は“tuh”とも異つている。なお, この腫瘍を, 表現度に従つて一応便宜的に5型に区別した (Figs. 1, 2, 3, 4, 5) が, いずれも最後には消失するかあるいは痕跡としてのみ残存する。
    3. 4代にわたる自家交配を行つた結果, 腫瘍の発現率が41%から91%まで, かなり急激に増昇することが判つた。また, 腫瘍と出石及び大津の二野生型との間の相互交配の結果から, 腫瘍の発現に毋性の影響が働いていることを知つた。
  • 森 和雄
    1954 年 45 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    牛肝飼与が p-Dimethylaminoazobenzene (DAB) による肝癌生成を顕著に抑制する事実は, 1938年中原•森らによつて初めて報告されて以来, 内外多数の研究者により追証されたところである。一方1941年 Wilson らによつて2-Acetylaminofluorene (AAF) 飼与による各種の臓器癌の生成が発見された。最近, これらAAF腫瘍の生成が飼料の組成, ホルモンあるいは動物の系統によつて, 著しく左右されることが問題となつてきた。本実験においてはAAF発癌に対する牛肝飼与の影響を検討した。
    0.03%の割合にAAFを白米に混じた飼料を与えた雌白鼠30匹 (対照群) と, さらに10%肝粉末を添加した飼料で20匹の動物 (牛肝添加群) を飼養した。いずれの群でも, AAFの投与は6カ月で打ち切り, さらに4カ月間正常白米食を与えた。
    実験の初期に, 両群とも各約半数の動物が著変を示さず死亡した。実験開始後198日に至つて, 対照群の1匹が肝癌を示し, 以後実験終了の300日までに総数16例を剖見した。対照群における肝所見は, 7例 (43.7%) が肝癌を, 残りの9例 (56.3%) が高度の肝硬変を示していた。これに対し牛肝添加群では, 同期間に10例の動物がしらべられた。すなわち2例 (20.0%) は肝癌, 2例 (20.0%) は肝硬変を, さらに2例 (20.0%) は軽度の結節状肥大を示し, 残りの4例 (40.0%) は肉眼的には正常であつた。
    本実験におけるAAF腫瘍の発生は, 従来の外国研究者の報告と異なり, 1例の乳癌 (対照群) を除いては, すべて肝癌であつた。しかし上述の結果は, 牛肝飼与がAAF肝癌生成を, かなり抑制することを示している。このことは肝エキスを用いて抑制効果なしと断定した Harris の報告と, 完全に食い違つているが, これらの解決は将来に残されている。
  • 森 和雄, 一井 昭五, 永瀬 金一郎
    1954 年 45 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    2-Acetylaminofluoreneを0.03%の割合に白米に混じて白鼠に与え,6カ月を経て正常白米食に戻し,さらに4カ月飼育後実験に供した。剖検の結果,肉眼的正常肝から肝癌に至る変化を4段階に分ち,それぞれの病変についてカタラーゼ並にユリカーゼ活性度を測定した。
    カタラーゼは最初肝の病変の進行につれて,多少ではあるがその活性度が増したが,肝硬変では正常値に比べて半減し,肝癌では著しく低下した。
    ユリカーゼについては,病変の初期には正常肝と変りなく,肝硬変ではかなりの低下を示しさらに肝癌では全くないかあるいは痕跡的存在を示す程度であつた。
    これら活性度の変化はp-Dimethylamenoazobenzene飼与白鼠の肝カタラーゼ並にユリカーゼの消長と殆ど同一の傾向を示している。
  • 一井 昭五, 森 和雄, 大橋 望彦
    1954 年 45 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    2-Acetylaminofluorene (AAF) を動物に与えて肝癌を生成する過程における白鼠血清および肝の Phosphatase と Esterase の活性度をしらべた。この際, p-Dimethylaminoazobenzene (DAB)による肝癌を前者の場合と比較した。
    実験結果は表示の如くであるが, 総括的にいえば, AAFあるいはDAB投与による肝癌生成過程におけるそれぞれの白鼠の血清と肝の Phosphatase, Esterase 作用は, 肝病変に応じ殆ど同じようであつた。
    すなわち肝癌生成過程における白鼠の血清 Phosphatase は試験された範囲のpH域 (pH 4,7ならびに9) では対照動物に比べて顕著な差がみとめられなかつた。肝組織 Phosphatase はpH 4の場合には対照に比べて大差なく, しかしpH 9の場合には肝癌 Phosphatase が著しく増量した。このことはDAB投与白鼠についてなされた従来の諸報告とほぼ一致している。
    血清 Esterase 作用はAAFあるいはDABを与えた動物では対照に比してやや強く, 殊にAAF肝癌動物ではかなり高位を示した。しかし肝組織 Esterase 作用は病変の進行に関係なく不変で, さらに肝癌では半減することがみとめられた。
  • 春野 勝彦
    1954 年 45 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    バターエロー (DAB) およびアセチールアミノフルオレン (AAF) をそれぞれ経口投与した鼠の肝およびその他の臓器のアスパラギナーゼ (asp) の活性度を検討した。DAB投与鼠の肝aspの活性度に関する既報の事実を再確認し, さらにAAF投与鼠についても全く同様な結果を得た。すなわちAAF投与の初期実験において鼠肝のasp活性度は正常動物にくらべて顕著に下り, 約4週で最低値に達する。
    AAFを長期投与し測定の直前までつづけた鼠の肝ではasp活性度は極わめて低い。この時期の肝は病変肝である。長期投与の後, AAF食を中絶し正常食にもどして飼育した鼠の肝のasp活性度は正常値に近づいている。すでに肝癌になつた部の活性度には回復現象はない。
    Millerらの提唱するアゾ色素投与により肝蛋白結合アゾ色素が生じ肝の蛋白 (酵素) の変性を来すという説に思いあたる。AAF投与の場合も全く同様にAAFが肝酵素に結合し変性をおこすものと想像する。この現われの一つとして著者のみた如く肝aspの活性度がAAF投与で低下したものと思う。
    肝以外の臓器, 脳, 腎等でaspの活性度を測定したが正常との差異は論ずることができなかつた。すはわち多発性の発癌物質といわれるAAFと癌を特異的に肝に好発させるDABを用いた場合との差は結局認められなかつた。
  • 岸 三二, 春野 勝彦
    1954 年 45 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    バターイエロー投与によつて白鼠に肝癌が実験的に生成される過程において, 肝酵素の活性度を調べることは肝の正常機能が癌化するに伴つておこる変化を酵素学的に追究することである。
    白鼠にバターイエローを投与し, 約150日経過し後正常食に数週間もどしたものの肝を選んだ。これを肉眼的に観察して肉眼的正常, 表面不平滑, 硬変肝, 肝癌に区別して取り扱つた。対照として米食の正常白鼠の肝および牛肝未飼与白鼠の肝を用いた。酵素液は水均質液を用い, 緩衝液と基質としてRNA (メルク製) あるいはDNA (牛脾より分離) の2%溶液を用いた。これら混合液を38°C, 24時間保存後, Folin 氏法により遊離したアンモニアを定量して脱アミノ作用の活性度とし, 生組織1g当りに算出して比較した。この際白紙試験によつて得た値を差引いた。
    活性度をpH曲線によつてみるとRNA脱アミノ酵素では二つの極大値 (pH 5-6および10-11) を認めた。酸性側の極大値においては正常肝よりDAB投与白鼠の肝は活性度が大で肉眼的正常肝は高く, 表面不平滑肝を最高として硬変肝となつて下り, 肝癌に至つて活性度は再び正常肝に近づく, アルカリ性側の極大値をみると肝病変の亢進に伴つて階段的に活性度を増し, 肝癌では顕著に高い値を示した。DNA脱アミノ酵素はpH曲線中にさきと同様に二つの極大値 (pH 6および9) をみた。酸性側の極大値においては硬変肝の示す活性度が最も高く, 肝癌はこれに次ぐが正常肝よりなお著しく高い。アルカリ性側の極大値においては, 正常肝より病変肝は著明に活性度を示すが病変肝相互の差異は明らかでない。
    核酸の如き酵素作用をこうむる個処の多い復雑な物質を基質として選んだため, 肝の水均質液によつて核酸分子に相異なつた酵素作用が同時にあるいは連鎖的におこりうる。われわれはそのうち脱アミノ作用のみに注目して活性度を比較検討したのであるから, なお多くの問題が残されているはずである。われわれは本実験において組織増殖の問題に直結している物質である核酸を採り上げて基質とし, 核酸脱アミノ作用の著差が肝の組織の悪性変化に伴つておこることを認めた。要約すればRNAおよびDNA脱アミノ酵素の活性度は病変肝において常に対照より亢進していることである。
  • 岸 三二, 春野 勝彦, 浅野 文一
    1954 年 45 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    われわれは発癌過程における肝酵素作用の変調の追究をつづけている。基質として用いる化学的物質のC-N結合を開く酵素に属するアミダーゼを調べているが, ここにハロゲン化低級脂肪酸アミドの11種を合成しうち8種について得た結果を報告する。
    ダイコクネズミに肝癌生成物質バクーエロー, アセチールアミノフルオレンをそれぞれ経口投与し一定期間後その肝性組織を採り, 水均質液を作り酵素液とした。これに基質としてハロゲン化脂肪酸アミドの水溶液を加え, 燐酸緩衝液とともに孵卵器中に保存, 一定時間内に脱アミノ化されて生じたアンモニアをフォリン氏法によつて定量し, この種の酵素の活性度とした。
    正常肝は上記基質をよく分解する。発癌剤投与中の動物は活性度は低いが, 投与を中絶して正常食に戻したネズミの肝では, 病変肝でも活性度はかなり高く, 軽度の病変では正常よりかえつて高いことがある。しかしすでに肝癌になつている部の活性度は極わめて低い。なお基質とした同族列はみな同一傾向の結果を示した。しかも既報のアスパラギナーゼの場合と酷似している。
    この種のハロゲン化脂肪酸アミドの脱アミノ酵素か動物組織中に存在することは文献に見当らない。使用した基質のうち炭素原子数の多いノルマル脂肪酸誘導体はイソや, より低級脂肪酸誘導体より顕著にネズミ肝均質液により脱アミノ化される傾向がみられる。
  • 中原 和郎, 福岡 文子
    1954 年 45 巻 1 号 p. 67-75
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    腫瘍組織の水浸出液を透析して, 透析物中にトキソホルモン作用を有する物質が存在すること, および従来得られた非透析性のトキソホルモン濃縮物を酵素的に分解すると, 同様の可透析性トキソホルモン作用を有する物質が得られることを見出した。
    可透析性のものがトキソホルモンの基本型であり, 非透析性のものはこの基本型の集合した, あるいは他の物質と結合した型であるまいかと考えられる。Greenfield-Meister の非透析性トキソホルモン濃縮物を塩酸水解してもなお効力を失わないという成績は, これによつて説明出来る。
  • 中原 和郎, 福岡 文子
    1954 年 45 巻 1 号 p. 77-85
    発行日: 1954/03/31
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    トキソホルモンは一種のポリペプタイドであろうという作業仮説から, 最近の組織酵素系-ATPによるペプタイドの生合成の研究に做い, アミノ酸とATPとを用い腫瘍組織スライスによる試験管内トキソホルモン合成を試み, 簡単な要約のもとにトキソホルモンとして強力な作用を有する物質が反応液中にできることを見出した。
    この生合成に最少限必要なアミノ酸は, アルギニン, フェニルアラニンおよびロイシンの三種であるが, 他のアミノ酸もある程度関与している可能性は否定できない。また, 生合成の最適実験要約は将来の研究によつて決定されなければならない。
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