Print ISSN : 0016-450X
マウスに発生した非移植性腹水腫瘍について
石原 隆昭吉田 俊秀
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1955 年 46 巻 1 号 p. 27-32

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抄録

筆者の一人, 吉田が北大牧野研究室でB系マウスの近親交配をしていたときに, その系統の一個体に腹水性腫瘍の自然発生を見た。この腫瘍を原発系統および他系統の多数の個体へ移植を試みたが, 結果はすべて陰性であった。この研究はこの腫瘍の組織細胞学的な検索の結果である。
脾臓, 肝臓および腸間膜淋巴腺などに著しい肥大が認められ, 腹腔背壁には拇指頭大の癌状腫瘍が観察された。腹腔内には多量の出血性腹水が認められた。肝臓, 脾臓, および腎臓の組織学的観察を行ったが淋巴性細胞, 淋巴球および中性好性白血球の浸潤が見られた。特に腎臓の変化が強度で, 腎小休に淋巴性細胞の浸潤が著しい。腹腔背壁の癌状腫瘍は淋巴性細胞および淋巴球からなり, 分裂細胞が多数見られた。
腹水を aceto-orcein で固定染色し観察したところ, 多数の腫瘍細胞が見られ, 分裂像もしばしば観察された。分裂細胞の染色体の形態を観察したが, 凝集型, その他の異常分裂型が多く, 正常に分裂している所の, いわゆる分裂型細胞は一個体も見られなかった。
以上の観察結果から, この腫瘍は恐らく淋巴性白血病であろうと考えられる。この腫瘍が他の個体に移植されなかった理由としては色々と考えられるが, 正常に分裂増殖するところの, 分裂型細胞の欠除がその一因ではなかろうかと考えられた。

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© 日本癌学会
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