著者等は胃癌の組織発生を研究しつつあるが, 充実癌に比し腺癌の発生型態が漠然としているのに悩んでいる。この困難をのりこえるために, 胃粘膜に発生する腸上皮化生の機転を明かにし, それとの比較から腺癌発生のそれに関し, 手懸りを得たいと望むようになった。著者等の外科で切除された胃潰瘍の中に, 潰瘍周辺に奇妙な糜爛が存在する1例があった。そこから多数の連続切片を作製した所, 多数の異型性腺腔群と腸上皮細胞群とが混然として発生しているのが見出された。腸上皮細胞群の中, 連続切片によってその独立性が立体的に証明されたものを腸上皮細胞島と呼ぶことにし, それを大きさの順に並べると, 腸上皮細胞島は主として胃小窩の最深部に当る不偏細胞帯に発生し, 周囲の細胞を置換することによって次第に増殖拡大するものであると推論することが出来た。見出された最小の腸上皮細胞島は幅50μ, (細胞数7個), 厚さ60μ, で数十個の細胞群よりなっていた。かかる大きさの島が本例に6個あった。
腸上皮細胞性腺腔の新生という問題は否定も出来ないが, 腸上皮島の増殖には大きな役割を演じていないと考えられた。かかる型の新しい細胞群の発生形式を腸上皮型発生と呼びたい。
腸上皮細胞の発生(化生)母細胞は一応不偏細胞と考えられたが, 一般の胃小窩上皮, 再生上皮等にこの能力があるかどうか, 等の問題は未決定である。
また腸上皮細胞に似て非な異型性細胞群が本例には多数みられ, かつそれらが, 腸上皮島との構造の比較から腸上皮型発生型式をとることも推定された。それらの異型細胞群はそれ自身異型性が強いのみならず, それらから構造の乱れ, 染色性の変化等の強い細胞群が発生している像が見出されるので, その悪性度如何ということは極めて重要な問題であると思われるがこれについては別の機会に論ずるつもりである。
抄録全体を表示