Print ISSN : 0016-450X
ラッテ肝におけるトリパン青とパラヂメチルアミノアゾベンゼンの生化学的相互作用 (I)
藤田 啓介岩瀬 正次松原 敏夫石黒 伊三雄松井 博水野 哲彦新井 豊久高柳 哲也杉山 泰世白京 藤子
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1956 年 47 巻 2 号 p. 181-206

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抄録

すでに, 岩瀬, 藤田, 及び猿山, 宮地らは, トリパン青がラッテによる実験的肝癌発生を著るしく抑制することを報告した。DABによる肝癌の抑制実験は多数報告せられ, その機構についても種々の論議がなされている。われわれはこれら2種の色素が何れもアゾ色素であることから, その抑制機構について, 肝蛋白に対する2つの色素の結合の競り合いによるのではないかと仮定した。しかし, 少くとも Miller 等の蛋白結合DABに対しては, トリパン青はほとんど影響を与えないことを知った。その抑制に関連して, カタラーゼ, リボフラビン, 呼吸酵素, 及び核酸の推移が検討されたが, 最終の機構については, 現在のところ如何なる解釈も与え得ない。
トリパン青はラッテに細網肉腫を作る。従って, この色素による肝癌発生の抑制は, まさしく3'-メチル-DABによる肝癌発生を20ーメチルコラントレンが抑制した Richardson 等の知見に類似している。しかしわれわれが抑制実験に用いたトリパン青のメルク製品は, 多くの他の製品と同様に不純物を含有している。すなわち, 濾紙クロマトグラフィー, 吸着クロマトグラフィー, 濾紙電気泳動上, メルク製品は少なくとも3種色素赤, 紫, 青の混合物であった。従って, かかる製品を用いては, 一方において細網肉腫を作る色素成分が, 同一個体において直ちに他の発癌物質による肝癌発生を抑制するとは言い得ない。

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