2021 年 32 巻 p. 63-75
日本のエンターテインメント文化において、「ソード・アート・オンライン」ほど、国内外から大きな注目を集めている物語世界はない。本考察では、同名のアニメの前半16話分に焦点を当て、文化的にも年代的にも異なるスペイン文学の最高峰『ドン・キホーテデ・ラ・マンチャ』と比較分析する。つまり、アニメの主人公である桐ヶ谷和人が、そのアバターであるキリトに、ときには歪んで、ときには忠実に反映される点で、アロンソ・キハノとその分身であるドン・キホーテの関係をベースに読み解く試みである。さらに、このアニメのキャラクターを分析することで、このアニメシリーズが、スペイン黄金時代のテクストにおいてすでに生み出されていた現実と外見の概念に対する考察を深化することも可能ではないか。このアニメは、スペイン黄金世紀とは異なる社会史的・時間的条件の産物であるにもかかわらず、幅広くバロック的感覚を備えており、日本の大衆文化に慣れ親しんだ観客が、17世紀スペインの文学的形象を再考・再発見する一助となるであろう。