Chem-Bio Informatics Journal
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有機合成における酵素リパーゼの鏡像体選択性と反応性の解明に向けた生体分子化学計算
矢城 陽一朗木村 崇知亀澤 誠直島 好伸
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2018 年 18 巻 p. 21-31

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抄録

我々は数年来、生体分子化学計算によって、Burkholderia cepacia lipase (BCL) やCandida antarctica lipase typeB (CALB) の鏡像体選択性や反応性を非経験的に解析、予測する研究を行っている。本研究では、CALBと数種の第一種および第二種アルコール系エステル基質との複合体について、分子動力学 (MD) 計算とフラグメント分子軌道 (FMO) 計算を実施した。MD計算から、選択性が高い基質の複合体において、合成実験で優先的に変換される鏡像体はCALBの活性中心付近にとどまり、一方、変換されにくい鏡像体は活性中心から直ちに離れていく様子が認められた。また、選択性が低い基質の複合体では、(R)-体と(S)-体の両鏡像体ともCALBの活性中心付近にとどまっていることがわかった。FMO計算によるCALBのアミノ酸残基と基質分子との相互作用エネルギー解析の結果、選択性が高い基質では、優先的に変換される鏡像体の全てがCALBのアミノ酸残基THR40と強く相互作用していることが認められた。それに対し、変換されにくい鏡像体では、THR40を含めアミノ酸との相互作用はほとんど認められなかった。一方、選択性が低い基質では、その両鏡像体ともにTHR40を含む同じようなアミノ酸と相互作用していることが判明した。これらの結果から、THR40が基質の鏡像体認識における重要なアミノ酸残基であると推定できる。

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