本稿は、1992年のオレンジ果汁の輸入自由化で需要が激減し、苦境に陥った国産柑橘果汁産業が、その後どのような経営転換を遂げたのか考察したものである。その結果、国産柑橘果汁生産の大半を担っていた農協系工場は、その規模は5分の1以下に低下したものの、濃縮果汁還元による製品だけでなくストレート果汁製品の生産にも注力するようになったこと、みかんだけでなく多様な柑橘類の搾汁・製品化を行うようになったことが明らかになった。これは、経済・社会の成熟化によって量より質を重視する消費嗜好が高まる中、経営を高付加加価値路線に転換したものといえる。また、2010年以降は、非農協系の果汁工場の参入もみられるようになった。これらの工場は、従来の柑橘果汁製品との価格競争を回避するために「原料にもこだわった高品質なストレート果汁」の製造に特化しているため、一般にスーパー等で見かけることはなく、高級食品店や土産物店、ふるさと納税サイトを含むネット通販が主な販路となっている点に特徴がある。このような高級感とローカル色が特徴の飲料に対する需要がいつまで続くのかは未知数だが、柑橘産地内における農家等の起業による果汁飲料の製造・販売は「農業の6次産業化」の動きとしては極めて興味深い。