抄録
マウスの遺伝性小眼症(mic)は常染色体性劣性単一遺伝子によって支配され,形態学的観察から,小眼症の発現には幅広い変異がみとめられると報告されている.本研究では,催奇形物質であるtrypan blueがmic遺伝子による小眼症の発現にどのような影響をおよぼすか,さらに母体の遺伝子型によって発現頻度がどのように変化するかについて検討した.C57BL系雌マウス(+/+)とMc系雄マウス(mic/mic)との交配より得られたF_1雌(+/mic)をMC系雄叉はC57BL系雄に戻し交配した.それぞれの妊娠母獣の半数には妊娠7日に1% trypan blue水溶液を0.1ml/マウスの割合で腹腔内に注射し,残りの半数は無処理群とした.妊娠18日に母獣を開腹して胎仔を取り出し,実体顕微鏡下に外形観察を行なって小眼症の有無を判定した.さらに,C57BL系雌とMC系雄との交配より得られたF_1雄をMC系雌へ戻し交配して母体効果の有無を検討した.F_1雌をMC系雄に戻し交配した場合,胎仔の小眼症の頻度は31.9%で理論値(50%)より有意に低くかった.しかし,trypan blue処理によって小眼症の頻度は上昇して54.2%となり,理論値とほば一致した.F_1雌をC57BL系雄に戻し交配した場合,小眼症の頻度はtrypan blue処理群で12.9%,無処理群で10.6%で,両群の間に有意差はみられなかった.これらのことから,trypan blue処理はmic遺伝子をホモ接合にもつ胎仔に作用して小眼症の頻度を上昇させるが,ヘテロ接合のmic遺伝子との間には相互作用を示さないと考えられる. F_1雄をMC系雌に戻し交配した場合,小眼症の頻度は42.5%で理論値との間に有意差はみられず,母体効果の存在が示唆された,