マウスの新生仔に大量のグルタミン酸ソーダ(MSG)を与えると脳の視床下部などに限局性の傷害がおこることが知られている.この原因について種々の研究がなされているが,MSGの大量投与は脳全体のグルタミン酸をあまり増加させないといわれる.PerezとOlneyはマウスの新生仔にMSGを投与して視床下部弓状核のグルタミン酸を測定し,15分で2倍量に達し,3時間後に最高値に達したが,対照とした視床外側核ではグルタミン酸はほとんど増加しなかったと報告している.しかし同様の傷害は視床下部のほか,網膜,視索前野,海馬正中部などにもみられるので,それらの部域についても検討する必要がある.本実験では生後15時間以内で体重1.6土0.05gのCF#1マウス新生仔に^<14>C-MSGを皮下投与して,液体シンチレーションと凍結オートラジオグラフィによって放射能の脳内への移行と分布について観察した. 1.^<14>C-MSG放射能の脳内移行:^<14>C-MSG(u)を非標識MsGと混合してマウス新生仔の背部に1mg/g,1μCi/動物になるよう皮下投与した.投与直後から24時間後までの種々の時間に外腸骨動静脈から20μlの血液を採取し,その直後にドライアイス・アセトンで急速に凍結させた.嗅球から小脳までの全脳をとりだし重量測定後,脳と血中の放射能を測定した.採血後も脳内に残留する血液量を測定するため,^<131>I一血清アルブミン(RIHSA)を他の新生仔の尾静脈より投与し,15分後に同様の方法で血液と全脳を採取し,ガンマ線の測定をおこなった結果,採血後も脳内に残留する血液量は13μl/g脳湿重量と計算された.そこで脳の放射能の測定値から13μl分の血液放射能を差し引いて補正した値を脳実質内に移行した放射能とみなした.血中の放射能は^<14>C-MSG投与後急速に増カ四し,50分後に最高値に達したのち急減した.脳内放射能は3時間後に最高値に達し,以後漸減した.最高値における脳内放射能は血中のそれにくらべて約1/8であった.2.^<14>C-MSG放射能の脳内分布:前記と同様の方法で^<14>C-MSGを投与し,急速凍結させた新生仔の頭部から30μmの連続凍結切片を作製した.切片は融解しないように乾燥させ,6μmのプラスチック膜で被い工業用X線フィルムに密着させた.2週間露出したのちフィルムを現像し,別に作製したH-E染色標本と比較して脳内の放射能分布を観察した.その結果,脳をのぞく頭部諸臓器に一くらべて脳内の放射能は弱かったが,すでに15分後には網膜,水晶体,視索前野,視床背部,海馬正中部,視床下部弓状核付近および側脳室と第三脳室の脈絡叢に明瞭な放射能集積がみられ,これらの部域は水晶体と脈絡叢をのぞいてグルタミン酸ソーダによる限局性傷害の部域と一致した.このような放射能集積は15分後から24時間後まで観察されたが,36〜60時問後では水晶体と網膜だけに強い放射能が残り,脳およびその他の頭部諸組織はほとんど均一に弱く標識されているにすぎなかった.
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