2022 年 2022 巻 133 号 p. 15-25
チャもち病菌Exobasidium vexansはチャに大きな被害をもたらす病原菌であるが,その人工培養については,困難とされていた。培養方法の確立はこの病原菌の特徴を明らかにするために,また有用な防除方法の 開発にとって重要である。本病菌は一般的なカビ用の培地である市販のジャガイモ煎汁ブドウ糖寒天培地 (PDA) では生育しなかったが,ジャガイモ煎汁ブドウ糖培地 (PDB) に食用寒天を加えたPDA培地では生育可能となったため,食用寒天の元素分析を行った。その結果,0.6 %以上カルシウムを含む寒天が本菌のPDA上でのコロニー形成に関与していることが示唆された。寒天15gに対しそれぞれ0.7 %と10 %濃度となるようなカルシウムを添加したPDAを作成し培養した結果,両濃度のコロニー生育に対する違いはなく,100 mgL-1のカルシウム (寒天重量15 gL-1に対して0.7 %カルシウム濃度相当) を添加した培地で本菌は培養可能であることが明らかとなった。また,7種類のカルシウム塩 (塩化カルシウム,塩化カルシウム二水和物,硝酸カルシウム四水和物,水酸化カルシウム,炭酸カルシウム,硫酸カルシウム二水和物およびリン酸一水素カルシウム) の中で,本菌は炭酸カルシウムあるいはリン酸一水素カルシウム添加で生育し,炭酸カルシウム添加が最も適していた。なお,カルシウム塩を添加したPDAの水素イオン指数は5.35から7.56であった。本菌は,今回開発した培地上で良好に生育し,培養を維持することができた。また,培養23日後に担子器と担子胞子が観察された。