山間部の煎茶の香りの特徴を明らかにするため,山間部で生産された煎茶の香りと平坦部で生産された煎茶の香りを解析した。キャラクターホイールを用いた官能評価では同じ産地でも摘採年により抽出される用語は異なった。さらに,同じ産地でも摘採年によってFDファクターが大きく異なる成分もあり,FDファクターから山間部の煎茶の香りの特徴を把握することは困難であると思われた。そこで,香気エキス希釈分析によって得られた結果を主成分分析したところ,山間部の煎茶の特徴香に関与する香気寄与成分としてfuraneol,(Z)-methyl jasmonate,indole,vanillinが見出された。しかし,これらの成分は平坦部で生産された煎茶にも含まれている。従って,山間部の煎茶の香りは香気成分の組成に影響を受けることがわかった。
アルミニウムイオンは通常,植物に対して毒性を示すが,チャの生育にはむしろ重要である。我々は,チャにおける水溶性アルミニウムの存在形態と濃度を明らかにするために,本簀および露天栽培の‘やぶきた’および露天栽培の‘べにふうき’と‘べにほまれ’の葉および圃場から土壌を採取し,それらに含まれる水溶性アルミニウム錯体の種類と濃度を分析した。また,京都府在来種の葉および株の周辺土壌に含まれるアルミニウム錯体の種類と濃度の変化を経時的に調べた。その結果,ほとんどの試料から錯体としてシュウ酸アルミニウム錯体とクエン酸アルミニウム錯体が,イオンとしてAl (SO4)+およびアルミニウムイオンが検出された。しかし,その種類や濃度は時期によって異なっていた。このことから,時期により葉におけるアルミニウムの存在形態がダイナミックに変動することが明らかとなった。
消費者の嗜好の多様性に応じた品種ブレンドを明らかにするため,埼玉県茶業研究所で行われた消費者向けイベントにおいて,「オーダー銘茶会」と称する企画を実施した。オーダー銘茶会では,消費者の味や香気などの嗜好を嗜好属性として新たに位置づけ,5種類の緑茶用品種を組み合わせてブレンドを実施した。その結果,品種の組み合わせは参加者ごとに異なり,消費者の緑茶に対する嗜好が多様であることが裏付けられた。また,嗜好属性をもとにした品種の柔軟なブレンドは嗜好の多様性に応えうる手段として有効であることが分かった。しかしながら,味や香気などの嗜好をブレンドのための所属属性とした場合,香味などの感受性は個人差があり,香味などの品質の特徴を嗜好の属性として利用することについては更なる検討が必要であると考えられた。
明治初期に政府はヤマチャを利用して紅茶の輸出振興を図るために,各地に紅茶伝習所を設置した。このうち,1976 (明治9) 年に設立された人吉の中国風紅茶伝習所は,文献に人吉市田町であることが記されている。明治末期から大正期を記した人吉市田町の地図によると,紅茶伝習所は現在の寿福酒造近辺であることが明らかになった。