抄録
限局性腹膜炎を合併せる急性虫垂炎10例, 胆石症による急性および亜急性胆のう・胆管炎5例, クローン氏病および痔痩各1例, 総計17例の患者の手術に際して, 術前にCeftazidime (CAZ, SN401) 1gを静注し, 各種体液, 組織内のCAZ濃度を術中に採取した試料より検索した。測定法はProteus mirabilis ATCC 21100を検定菌とする薄層ディスク法である。胆道系感染症において, 総胆管胆汁内CAZ濃度は6.28~24.5μg/mlを認め, 胆のう胆汁内濃度は胆のう管閉塞例で1.17~7.68μg/ml, 開存例で5.23~19.2μg/mlを示し, 胆のう壁内濃度は17.5~42.2μg/gを認めた。急性虫垂炎の虫垂壁内濃度は4.35~44.4μg/gを示し, 重症例は高濃度であった。膿腫性虫垂の虫垂内膿汁では2.46~6.75μg/mlのCAZ濃度を認めた。膿性腹水内濃度は12.8~46.5μg/mlを示した。痔痩壁は34.1μg/gであった。CAZは胆汁への移行は高濃度ではないが, 炎症病巣への移行は極めて良好で, 短時間に高濃度に達し, 炎症の強いものでは比較的長時間高濃度を維持するといえる。5例の2種複数菌感染を含む13例で起炎菌が検索されたが, その大部分を, しめるEscherichia coliのMICは, 108cells/mlで0.39~0.78μg/mlであり。CAZ 1g静注後の炎症組織内濃度は, これらのMICを大幅に上回っており, CAZの腹部炎症性疾患に対する有用性が裏付けられた。