CHEMOTHERAPY
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経口抗菌剤の消化管術前処理としての意義KanamycinとOfloxacinの比較
谷村 弘斎藤 徹稲本 俊小林 展章
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1984 年 32 巻 12 号 p. 972-984

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抄録

消化器疾患の手術に際して術前に経口合成抗菌剤 Ofloxacin を投与し, 糞便中および消化管粘液中細菌数, 糞便中薬剤濃度の測定とその臨床効果を, 従来から頻用されてきた Kanamycin 投与時と比較, 検討し, 以下の成績を得た。
1) ofloxacin 600mg/日を3日間および5日間投与後の糞便中平均薬剤濃度は, それぞれ 151μg/g, 124μg/g と低値であった。一方, Kanamycin 2g/日を3日間および5日間投与後の糞便中平均薬剤濃度は, それぞれ 5,916μg/g, 7,364μg/g と著しく高値を呈した。
2) Ofloxacin の3日間投与により, 糞便中の総細菌数は 8.49log10/g (以下菌数はすべてlog10/gで示す) から 6.50 と有意に減少した (P<0.01)。特に大腸菌群の菌数は 5.79 から 0.55と殆ど殺菌され, 嫌気性菌の Bacteroides 群も 7.12から 5.15まで減少したが, グラム陽性菌の Stnptococcus 群の減少はわずかであった。5日間投与でも3日間投与と同様の成績を示した。
3) Kanamycin 3日間投与後の糞便中総細菌数は 8.73 から 5.78 と有意に減少し, その主な変化は大腸菌群であったが, Oflomcinに比べてその減少は軽度であった。Streptocoocus 群と Bacteroides 群の菌数は3日間投与では一旦減少したが, いずれも5日間投与では投与開始前の菌数と変らず, これらの菌の再増殖が示唆された。
4) 吻合部の消化管粘液中の細菌数は, 好気性菌数では, ofloxacin 投与群で小腸粘液が10例中8例で0となり, 平均でも 0.85と, Kanamycin投与例の 3.49に比べ, 400分の1と低値を示し, 結腸粘液もそれぞれ Onoxacin 投与例 3.18, Kanamycin 投与例翫21と, Ofloxacin 投与例が1/100と優れた成績であった。嫌気性菌数では, 小腸粘液, 結腸粘液ともに両薬剤間で大きな差は認めなかった。
5) 高カロリー輸液 (IVH) や経腸栄養剤 (ED) 投与が糞便中細菌叢に与える影響を薬剤別に検討した結果, Ofloxacin 投与では, IVH 群, ED 群が無処置群に比べ, 糞便中総細菌数, 好気性菌数, 嫌気性菌数が著明に減少したが, Kanamycin 投与では各群間に殆ど差を認めなかった。
6) 術後創感染の発生率は, Ofloxacin 投与例では 5.3%と低かったが, Kanamycin投与例では16.7%と3倍も発生し, さらに1例 (8.3%) に縫合不全を生じた。

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