CHEMOTHERAPY
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メチシリン・セフェム耐性の黄色ブドウ球菌に対するβ-ラタタム系薬剤の抗菌力測定時における培養温度の影響
山下 直子生方 公子松下 真理紺野 昌俊増田 真理子野々口 律子
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1985 年 33 巻 9 号 p. 743-752

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抄録

臨床検査材料より分離したメチシリン・セフェム耐性の黄色ブドウ球菌50株を対象とし, 培養温度を違えてβ-ラクタム剤のMICと殺菌効果とを測定して, 下記のような成績を得た。
1. 9種類のβ-ラクタム剤に対するMICは, 1) 106/mlの接種菌量で30℃培養, 2) 106/mlの接種菌量で30℃培養, 3) 106/mlの接種菌量で37℃培養, 4) 106/mlの接種菌量で37℃培養, の四通りについて測定した。その結果は, 接種菌量が同じであっても培養温度が異なると, MICは大きく変動することが明らかにされた。つまり, 30℃の培養条件におけるMICに比較すると, 37℃のそれは8~32倍感性側へsiftする傾向が認められた。
2. MIC測定時の菌の培養と同一条件にしてMRSAに対するβ-ラクタム剤の殺菌効果を測定すると, 30℃の培養では殺菌効果の認められなかった薬剤濃度の添加によっても, 37℃の培養時には明らかな殺菌効果が認められた。
3. 培養温度によって殺菌効果に差異のあることは, 位相差顕微鏡による薬剤作用後の菌の形態観察によっても確かめられた。すなわち, 菌はほぼ同じ低い薬剤濃度から隔壁形成を阻害された膨化細胞を形成するが, 30℃の培養条件では薬剤濃度をかなり高めても容易には溶菌細胞が見出されないのに対し, 37℃の培養条件では, 比較的低い薬剤濃度から膨化細胞に混じって溶菌細胞が観察された。
4. 培養温度の違いによってMIC値と殺菌効果に差が認められるという成績は, Pcase plasmidを脱落させ, メチシリン・セフェム耐性の残った変異株においても同じように観察された。
5. このような現象は, メチシリン・セフェム耐性に関与しているpenicinin binding protein-2'が温度感受性であるため, その至適産生温度が37℃ではなく30℃にあるためであることを考察した。

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