日本化学療法学会雑誌
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ニューキノロン系薬耐性Neisseria gonorrhoeaeに関する基礎的および臨床的検討
田中 正利
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1999 年 47 巻 9 号 p. 543-552

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抄録

わが国におけるNeisseria gonorrhoeaeのニューキノロン (new quinolone: NQ) 系薬に対する耐性化状況, およびその耐性機序について検討した。
1. N.sonorrhoeaeのNQ系薬耐性化状況
529株 (1981~1984年分離27株, 1993~1994年分離151株, 1995~1996年分離154株, および1997~1998年分離197株) のN.gonorrhoeaeに対するNQ系薬をはじめとする各種薬剤のMIC値を測定した。Norfloxacin, ciprofloxacin (CPFX), levofloxacin, およびsparfloxacinの1997~1998年分離N.gonorrhoeae 197株に対するMIC90値は, 1981~1984年分離27株に対するそれより64~256倍も高い値を示し, N.gonorrhoeaeのNQ系薬に対する耐性化が顕著であった。NQ系薬耐性株 (CPFX MIC≧1μg/ml) の検出率は, 1981~1984年の0%(0/27) から年々上昇し, 1997~1998年では24.4%(48/197) と有意に高い検出率を示した。一方, β-ラクタム系薬をはじめとするNQ系薬以外の薬剤に対する耐性化は明らかではなかった。1995~1996年分離N.gonorrhoeae 116株における栄養要求型とNQ系薬耐性化の関係を検討した。CPFXのproline要求型に対するMIC90値は2μg/mlで, prototrophicやarginine要求型など他の栄養要求型に対するそれより8~512倍も高い値を示した。すなわち, proline要求型がNQ系薬に耐性化を示した。
2.
N.gonorrhoeaeのNQ系薬耐性機序
CPFXのMIC値が0.125~0.5μg/mlに分布するNQ系薬中等度耐性N.gonorrhoeae 36株のうち, 25株はDNA gyrase subunit A (GyrA) のみのキノロン耐性決定領域 (quinolone resistance-determining region: QRDR) にアミノ酸変化を有し, また, 11株はGyrAとtopoisomerase IV parC-encoded subunit (ParC) の両酵素のQRDRにアミノ酸変化を有していた。CPFXのMIC値が1~16μg/mlに分布する耐性29株はすべてGyrAに2か所のアミノ酸変化を有し, それに加えParCに1か所または2か所のアミノ酸変化を有していた。GyrAにおいては91番目のserine (Ser) →phenylalanine (Phe) 変化, またParCにおいては88番目のSer→proline変化の頻度がもっとも高かった。なお, ParCのみにアミノ酸変化を有する株は検討した128株中1株も認められなかった。これらのことより, N.sonorrhoeaeのNQ系薬耐性獲得にはGyrAにおけるアミノ酸変化が重要で, ParCにおけるアミノ酸変化は高度耐性化に関係していると考えられた。
Pazufloxacin (PZEX) を1回200mg, 1日3回, 3日間経口投与した男子淋菌性尿道炎におけるN.gonorrhoeae消失率は66.7%(28/42) と低く, 臨床的にもN.gonorrhoeaeのNQ系薬耐性化は明らかであった。PZFX投与後, 野生型およびGyrAの75番目, または95番目にアミノ酸変化を有する株はすべて消失したものの, GyrAのSer-91→Phe変化を有する株の消失率は21.4%と低く, また, GyrAに2か所のアミノ酸変化を有する株, およびGyrAとParCの両者にアミノ酸変化を有する株は1株も消失しなかった。

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