日本化学療法学会雑誌
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産婦人科領域感染症に対するpazufloxacin注射薬の臨床的検討
松田 静治他
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2000 年 48 巻 8 号 p. 654-672

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抄録

Pazufloxacin注射薬の産婦人科領域感染症に対する臨床的有用性を検討するために, 体内動態試験 (女性性器組織および骨盤死腔液への移行性) および感染症に対する臨床試験を実施し以下の成績を得た。
1) 子宮全摘出手術予定または施行患者 (計10例) に本薬300mgを30分間点滴静注し, 血清, 各性器組織 (子宮膣部, 子宮頸部, 子宮内膜, 子宮筋層, 卵管, 卵巣) および骨盤死腔液中の薬剤濃度を経時的に測定した。
(1) 点滴静注開始0.83から2.83時間後における血清中および各組織内濃度は0.83時間で最高値を示した。その時の子宮動脈および肘静脈血清中濃度は6, 72, 6.21μg/mLであった。また子宮膣部, 子宮頸部, 子宮内膜, 子宮筋層, 卵管および卵巣の組織内濃度はそれぞれ5.00, 7.79, 13.9, 12.9, 9.34および5.65μg/9であった。
(2) 骨盤死腔液中濃度については点滴静注開始0.25から6時間後まで経時的に測定した。血清中濃度は点滴静注開始025から0。5時間後に, 骨盤死腔液中濃度は1から4時間後に最高濃度を示した。血清および骨盤死腔液中の平均最高濃度はそれぞれ7, 83および3.18μg/mLであった。
2) 中等症以上の子宮付属器炎, 子宮肇結合織炎および骨盤腹膜炎49例を対象として, 本薬を1回300または500mg, 1日2から3回点滴静注し臨床的有用性を検討した。
(1) 有効性解析対象例42例に対する有効性は著効4例, 有効33例, 無効5例であり, その有効率は88.1%(37/42) であった。疾患別有効率は子宮付属器炎95.2%(20/21), 子宮労結合織炎80.0%(8/10), 骨盤腹膜炎81.8%(9/11) であった。
(2) 1回300と500mg投与における有効率は300mg投与で6/8,500mg投与で90.6%(29/32) であった。
(3) 他の抗菌薬無効症例8例 (子宮肇結織炎7例, 卵巣膿瘍1例) に対する有効率は6/8であった。
(4) 細菌学的効果解析対象例は30例であり, 単数菌感染および複数菌感染の有効率はそれぞれ83.3%(10/12) および88.9%(16/18) であった。原因菌60株の消失率は90.0%(54/60) であり, 好気性グラム陽性菌, 好気性グラム陰性菌および嫌気性菌の消失率はそれぞれ85.2%(23/27), 94.1%(16/17) および93.8%(15/16) であった。
(5) 副作用の発現率は10.4%(5/48) であり, その内訳は下痢2例, 水様便, 軟便および発疹各1例ずっであった。いずれも軽度から中等度の症状であった。
(6) 臨床検査値異常の発現率は17.4%(8/46) であり, 主としてトランスアミナーゼの上昇であった。
以上の成績より, 本薬は1回300または500mg投与で他の抗菌薬無効症例を含む中等症以上の子宮付属器炎, 子宮肇結合織炎, 骨盤腹膜炎に対して臨床的有用性をもつものと考えられた。

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