1957 年 28 巻 3 号 p. 146-151
加えられた燐脂質及びレシチンが精子の呼吸及び運動性にいかなる影響をあたえるかをみたのが本実験であつて,次のような結論を得た。
1. 卵黄より分離した粗燐脂質を精子に加えた場合,糖の存在しない好気的条件下では,精子(豚でも牛でも)の酸素消費に好影響をあたえ,運動性を支持した。
2. 糖の存在下では,豚精子の呼吸は粗燐脂質及びレシチンの添加によつて促進されず,むしろ阻害の傾向であつた
3. 粗燐脂質より精製されたレシチンは,好気的条件下では,豚・牛精子の運動性にも呼吸にも無影響であつた。
4. 卵レシチンは,自動酸化をおこしたものは,豚精子の運動性を阻害する物質を生ずるが,呼吸には無影響であつた。
5. 卵黄の非透析部より分離された燐脂質は,豚精子の運動性及び呼吸に無影響であつた。また粗燐脂質を透析して得られる非透析性燐脂質も,豚精子に利用されなかつた.このことは,燐脂質の精子の代謝に有効な物質がレシチン,ケフアリンなどではなくむしろ透析性の物質であることを示すものである。6 (粗大豆燐脂質は豚精子の呼吸を促進せず),また運動性においても有効ではなかつた。