日本畜産学会報
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日本在来家畜に関する遺伝学的研究
2. 南西諸島の在来やぎについて
鈴木 正三林田 重幸山内 忠平野沢 謙田中 一栄渡辺 誠喜西中川 駿庄武 孝義
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1967 年 38 巻 10 号 p. 443-452

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抄録

1961年から1964年にわたり,トカラ群島,奄美群島,五島列島,長崎県西海岸,種子島,屋久島および琉球諸島などに分布する肉用の在来やぎについて毛色,角の有無,肉髯,副乳頭の有無,血液型抗原G1,G2の有無,間性の6形質たつき調査し,また代表的個体についてはその体尺につき主要部位を計測し,在来やぎの遺伝的特徴を追求した.その結果次の事項が認められた.
1) 五島列島,長崎県西海岸および種子島,屋久島,上三島の地域集団の肉用やぎには白色個体(I_)が多い.有色(ii)には褐色,黒褐色,黒色およびチョコレート色があるが,トカラ群島宝島の在来やぎは褐色斑を呈する.琉球諸島中のいくつかの離島にもこの種の毛色を呈する個体が多く分布している.
角については在来やぎは有角を支配する常染色体性劣性遺伝子(p)をホモ接合体の形で有する.雑種化されると優性の無角遺伝子(P)およびそれと同時に間性を支配する劣性遺伝子(h)が流入する.純粋の在来やぎは肉髯を支配する1個の優性遺伝子(W)を欠き雑種化されたものにはこの遺伝子が存在する.副乳頭は殆んどこれを有するが,雑種化によりこれを欠くものが増加する.
また在来やぎのG1抗原,G2抗原の存在を支配する両優性遺伝子の頻度は極めて高いが,雑種化によりその頻度が低下する.
2) 体格は交通不便な孤島のものは一般に小型であるが,大部分のものはこの種のものとザーネン種との中間で体高は50~55cm,体長は51~62cmである.
3) 遺伝形質の均質度は一般に孤島では高く在来種としての特徴が保有されている.交通便利にしてザーネン種その他の品種が導入される可能性の高い地域の集団では,その値は低く,雑種化の現象を反映するものと考えられる.即ち調査地域全域に亘つてその在来やぎは孤島では未だこの本由の特徴を保有しつつ生存しているが,その他の地域では雑種化されつつ飼養されているものと考えられる.

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