日本畜産学会報
Online ISSN : 1880-8255
Print ISSN : 1346-907X
ISSN-L : 1880-8255
牛乳脂質の特性に関する研究
IV. 牛乳脂質のトランス酸含量
土屋 文安山本 良郎岡部 後道相沢 和子
著者情報
ジャーナル フリー

1972 年 43 巻 8 号 p. 438-445

詳細
抄録

全国22地区の1年間の牛乳脂質試料264点につき,赤外分光法によってトランス酸含量を測定し,トリエライジン含量として表わした.その結果,平均値は8.38%,標準偏差は1.45%であった.
北海道および岩手においては,トランス含量の季節的変動が明瞭であって,夏季は11%以上となり最高13.7%のものもみられ,冬季は6~8%に低下する.大都市近郊な近し専業地域においては季節的変動がほとんど認められず,常に含量が高い.その他の地域においては,季節的変動がやや認められて夏季に高くなるものと,ほとんど変動の認められないものとがあるが,いずれも6~9%の範囲にある.
二重結合のうちトランス化したものの割合を示す指標として,沃素価から換算したトリオレイン含量に対するトランス酸含量の比率T/U(%)を求めた.T/U率の平均値は20.6%,標準偏差は10.0%であった.T/U率はトランス酸含量と強い正の相関があり,その地域的季節的変動はトランス酸含量と同じ傾向にある.ただし,大都市専業地域においてはトランス酸含量が高いにもかかわらず,T/U率は必ずしも高くない.
乳脂肪中のトランス酸は,飼料中の多価不飽和脂肪酸が反芻胃内で水素添加される際に生じたトランス酸に由来するものといわれているので,北海道のように夏季に牧草が多量に供与される地域においては,トランス酸の含量およびその不飽和酸中の割合が上昇するが,農産製造粕•濃厚飼料が多く与えられる地域では季節的変動が小さく,かつ不飽和酸中の割合もほぼ一定しているものと考えられる.
上昇融点とトランス酸含量の間には,相関係数0.172の有意な単相関が認められる.また,上昇融点に対する沃素価とトランス酸含量の重相関は有意であるが,上昇融点とトランス酸含量の間の偏相関は有意でない.したがって,トランス酸が乳脂肪の上昇融点に影響をもっていることは明らかであるが,その影響の仕方は単純なものではなく,更に検討が必要である.

著者関連情報
© 社団法人日本畜産学会
前の記事 次の記事
feedback
Top