日本畜産学会報
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無麻酔めん羊腎におけるグルコース代謝の同位元素希釈法による定量的解析
佐々木 晋一安保 佳一津田 恒之渡邊 泰邦
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1982 年 53 巻 3 号 p. 186-192

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抄録

反芻動物においても肝と同様に高い糖新生能を持つ腎のグルコース代謝の量的解析については解明されていない.そこで,u-14C-glucoseのprimed infusionによる同位元素希釈法を使用し,正常採食および96時間絶食めん羊腎におけるグルコースの総産生率と利用率,さらに全生体におけるグルコース利用率をも同時に測定し,腎のグルコース産生の生体内グルコース要求に対する寄与率を定量的に検索した.腎血流量は正常採食めん羊26±1ml/min/kg,絶食めん羊20±3ml/min/kgで飢餓による変化は認められなかった.全生体でのグルコース利用率は正常採食めん羊で2.20±0.13mg/min/kgであり,絶食めん羊では正常採食めん羊のそれの76%に減少した(P<0.01).同様に,腎でのグルコース産生率は正常採食めん羊0.47±0.05mg/min/kg,絶食めん羊0.21±0.03mg/min/kgと正常採食期の45%に減少し(P<0.001)全生体でのグルコース利用に対する寄与率も正常採食めん羊の21.4%から12.6%と有意(P<0.001)に減少した.それに対して,腎におけるグルコース利用率は正常採食めん羊0.26±0.04mg/min/kg,絶食めん羊0.27±0.04mg/min/kgと同程度にグルコースを利用したにもかかわらず,全生体でのグルコース利用に対する割合は正常採食めん羊の11.8%に対して16.2%と1.4倍に増加した(P<0.001).以上より,正常めん羊の腎はそれ自身産生したグルコースの60%を利用し,40%を腎以外の組織に供給していることが推定された.一方,腎動静脈のグルコース濃度較差法により求めた見掛上の腎グルコース産生量は正常採食めん羊において0.22±0.05mg/min/kgで全生体でのグルコース利用に対する割合は10%であり,腎静脈へのグルコースの有意な添加(+2%)を示した.しかし,絶食めん羊では-0.06±0.01mg/min/kgと血糖値への負の寄与が観察された.以上の結果より,腎臓が糖新生により生成するグルコース量は,採食時には腎臓自身により消費される量を上廻り,他の臓器,器官にグルコースを供給するが,絶食時にはグルコース産生量は消費量以下で,他組織にグルコースを供給しないことが明らかになった.

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