日本畜産学会報
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システム分析を用いた肉用牛の改良方向の決定
広岡 博之
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1991 年 62 巻 8 号 p. 726-734

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抄録

牛肉生産に関するシミュレーションモデルを用いて,3種の重要な形質の改良方向に及ぼす集団の遺伝的水準(系統)や管理•経済条件の違いの影響を調べた.系統による遺伝的能力の違いを考慮した形質は,母牛の成熟体重(WA),乳量(MY)および12カ月齢体重(WY)であった.生産効率の指標として,(1) 飼料代謝エネルギー(ME)1MJ当たりの後代の出荷体重(kg)で表される生物学的効率(H1),(2) 飼料ME量1MJ当たりの母牛ならびに後代の出荷時体重(kg)で表される生物学的効率(H2),(3) 飼料ME量1MJ当たりの母牛の後代の筋肉量(kg)で表される生物学的効率(H3),(4) 飼料費(¥)に対する生産物からの利益(¥)の比で表される経済的効率(H4)を用いた.本研究では,これらの効率は指数選抜における総合的育種価と見なした.想定する遺伝的水準として黒毛和種雌牛について標準的なサイズの系統,大型サイズの系統および小型サイズの系統を考えた.管理や経済条件の代替は,肥育去勢牛の出荷時体重を500kgとする条件(べース条件では600kg),母牛の繁殖サイクルを3とした条件(べース条件では6)および母牛の飼料費を半分とした条件を想定した.遺伝的改良方向はH;の反応曲面式を各形質で偏微分して求め,遺伝的改良方向間の差の程度は2つの改良方向ベクトルのなす角度の余弦を用いて表した,さまざまな条件におけるシミュレーション実験の結果,改良方向は,対象とする系統,シミュレーション環境ならびに生物学的効率を取るか経済的効率を取るかでかなり異なった.このことから,育種計画における改良方向の設定は,以上の要因を十分に考慮した上で行なうべきであろうと考えられた.

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