日本畜産学会報
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毛髪ケラチン免疫複合体による牛乳由来抗体の生産性向上
太田 実佐々木 一郎村上 梅司打和 秀世
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1998 年 69 巻 6 号 p. 612-619

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抄録

牛乳由来の抗体を幅広い産業分野で利用するためには,目的とする特異抗体を高含有する乳の生産が必要である.乳牛は多様な環境下で飼育され,かっ個体差があり,免疫抗原に対する良好な応答が必ずしも一様に起らない.我々は低免疫応答性動物の免疫応答性を改善するために,毛髪ケラチンタンパク質を抗原とした抗原-抗体複合体の利用を検討した.免疫応答性の異なるマウスを用いて,免疫応答性向上のモデル試験を行った.系統の異なる4種類の雄マウスに毛髪ケラチンを投与し,血清抗体価を調べたところ,H-2k系統のC3H(雄)が毛髪ケラチンに対して著しく免疫応答性が低いことを見出した.このC3Hに免疫複合体を投与したところ,投与した全てのマウスで抗体価の良好な上昇が観察され,免疫応答性が向上した.一方,毛髪ケラチン抗原に対して免疫応答性の高いBalb/c(雌)では,免疫複合体を投与しても抗体価の上昇は認められなかった.マウスでの免疫複合体投与は,毛髪ケラチンに対する免疫応答が弱い系統に対してその応答性を上げる効果が認められた.同様の効果が,乳牛で認められるかどうかについて調べた.抗原-抗体の比を同当量とし,免疫複合体をウシに投与した.抗原のみを投与した群に比べて,免疫複合体を投与した群では特異抗体を高含有する乳を産生するウシの割合が向上した.以上より,毛髪ケラチン免疫複合体の利用は,乳牛に抗体を効率良く生産させるための有効な手段のひとつになる可能性を持つことが分かった.

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