2007 年 12 巻 2 号 p. 161-169
どのような行動を選択するかは、将来の状況を踏まえた上で決定されるが、無数に存在する将来の可能性から1つの像を描くことは容易ではない。不確実な将来を取り扱うツールとして、シナリオが様々な意思決定の場において活用されている。温暖化対策においても同様で、将来の社会・経済活動の動向を見通した上での対策が求められる一方、将来の気候の安定化のためには、温室効果ガス排出量の大幅な削減が必要となる。本稿では、将来の目標を定義した上で、現在からその目標に至る道筋を明らかにするバックキャスティングの手法を用いて、低炭素社会への道筋を明らかにする。すなわち、2050年を対象に二酸化炭素排出量を大幅に削減する社会像を示した上で、そうした目標となる社会像をどのように実現させていくのかについて、本分析用に開発した動学的最適化モデルによる分析をもとに明らかにする。
開発した動学的最適化モデルは、2000年を基準に、5年ごとに2070年までを対象とした線形モデルである。モデルでは日本の経済活動を26部門に分割し、割引現在価値で評価された効用を最大にするように消費、投資といった活動が決定される。二酸化炭素排出量については、2030年から削減を開始し、2050年には1990年比70%削減を実現するような制約条件を設定する。現状で導入が見込まれる様々な炭素削減対策についてそれらの導入上限と費用を設定し、炭素制約下において、2050年までにどのような対策が導入され、どのような影響が発生するかを分析する。その結果、炭素制約が課されていない2030年以前から一部の炭素削減対策が導入されるとともに、これらの対策の導入がGDPを押し上げる結果となった。一方、今回の対策の想定では、2040年にほぼすべての対策が導入され、2040年以降においては経済活動への影響も見られるようになる。これは、二酸化炭素排出量の制約を満たすために経済活動を縮小しようとするもので、そうした状況を回避するためには、より多様で削減量の大きい対策の開発や導入も必要となる。こうした対策を現実のものとするためには、2040年までの期間を有効に使用しなければならない。