2013 年 18 巻 2 号 p. 169-176
森にはさまざまな昆虫種が生息しており、樹幹中には穿孔性昆虫が棲んでいる。 本稿は森林害虫として知られる穿孔性昆虫の分子生態から解明されてきた、森と虫とひととの関わりを紹介する。スギカミキリやXylosandrus属の養菌性キクイムシ、ナラ枯れを媒介するカシノナガキクイムシでは、森を構成する樹木の歴史変遷が虫のDNAにも刻まれていた。これらは昆虫が樹木と進化の過程で繋がりをもってきたことを示している。一方、マツ枯れの媒介者であるマツノマダラカミキリの種内の遺伝子構成は、日本列島全般では構造を失っており、移入種であるマツノザイセンチュウの影響が遺伝的多様性の見地からも甚大だったことが明らかになった。樹木と昆虫の相互作用を一変してしまうような移入種の持ち込みは、単純な森林施業による個体数の変化よりも樹木と昆虫の関係に強く影響する可能性がある。そこで、地域の固有性を意識して、ひとは森や虫と向き合っていくことが重要だと考えられた。