2020 年 25 巻 1-2 号 p. 43-52
バクテリア生産速度(BP)の定量には放射性同位体を用いたチミジン法やロイシン 法が一般的に用いられており,放射性同位体の使用が厳しい国・地域においては実測 例が限られ,生産動態を知る上で障壁となっていた。そこで我々は放射性同位体を用 いないBP 測定法を開発した。本手法では15N で標識したデオキシアデノシン(15N-dA) をバクテリアに取り込ませ,DNA 抽出,酵素加水分解後に液体クロマトグラフィー 質量分析計によって15N-dA 取り込み速度を定量し,BP を見積もる。15N-dA 取り込 み速度は湖沼及び海洋において既存の3H- チミジン取り込み速度と有意な正の相関を 示し,本手法の妥当性が示された。この15N- デオキシアデノシン法は化合物レベルで 定量を行うため,既存の手法では成し得なかった純粋なDNA 合成速度の定量を可能 とした。本稿では15N-dA 法の開発過程とともに,琵琶湖における応用例を紹介し, 最後に今後の課題や展開について議論する。