2020 年 25 巻 1-2 号 p. 31-42
総一次生産(GPP)は水圏生態系の重要な指標である。しかし,従来の測定法は,培養の時間や手間,ボトル効果など問題点も多い。高速フラッシュ蛍光光度法(FRRf) は,励起光を用いて光化学系II のパラメーター群をリアルタイムに取得し,電子伝達速度からGPP を推定する手法である。FRRf を用いたGPP 推定の現状課題として,(1)自然光とFRRf の励起光の波長の違いを考慮したスペクトル補正の必要,(2)植物プランクトンの吸収ピークと励起光の波長の違い,(3)光化学系II 反応中心の密度推定,(4)炭素当たり電子要求量(фe,C)の変動が挙げられる。このうち(2)については,フィコビリンを対象とした530 nm と624 nm の励起波長を搭載するFRR 蛍光光度計により,富栄養な水域で見られるラン藻ブルームにおいても,測定が可能である。淡水における使用例はまだ少ないが,知見の蓄積とфe,C のモデル化を進めることで,より広く詳細なGPP 測定が可能となるだろう。