地球環境
Online ISSN : 2758-3783
Print ISSN : 1342-226X
25 巻, 1-2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
序文
論文
  • 中田 聡史
    2020 年25 巻1-2 号 p. 3-14
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    気候変動の影響による湖沼における鉛直循環のレジームシフトについてレビューした。世界の多くの湖沼では,地球温暖化によって鉛直混合が弱化しつつあり,将来の気候変動による鉛直循環のレジームシフトによって湖沼環境の脆弱性が増大することが示唆された。また,気候変動による気温上昇に加えて,風速減少による鉛直循環への影響評価研究の必要性が指摘された。琵琶湖においては,2017 年度では“強い全層循環”,2018 年度は“未完の全層循環” が現れ,鉛直循環のレジームシフトの兆候が示唆された。両年における鉛直循環の再現シミュレーションと,気候変動を模した数値実験結果から,“強い全層循環” は風速が約4 割減少すると未完となった。一方,“未完の全層循環” は風速が約1 割増加すると全層循環が達成された。全層循環には気温上昇に加えて風速変化も大きな支配要因であり,気候変動の影響評価のためには湖面風観測の充実が重要である。

  • 田中 周平, 王 夢澤, 鍋谷 佳希, 牛島 大志, 垣田 正樹, 岡本 萌巴美, 雪岡 聖, 藤井 滋穂, 高田 秀重
    2020 年25 巻1-2 号 p. 15-21
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    琵琶湖岸を歩くとプラスチックごみを見かけることが多い。これらのプラスチックごみは,どこから来て,どこに行くのかは,あまり知られていない。著者らは,さまざまな試料に対するマイクロプラスチックの分析方法の開発を進めており,その手順 を用いて,湖沼,海域,河川などの水環境調査や上下水処理場における挙動調査,魚貝類中の蓄積状況調査,化粧品やスクラブ剤などの製品中の含有容量調査など,発生源,排出源から生物への蓄積までの研究を展開してきた。本稿では,琵琶湖および琵琶湖流域におけるマイクロプラスチックの挙動を中心に報告し,その結果を他の環境と比較し考察を行った。

  • 霜鳥 孝一, 今井 章雄
    2020 年25 巻1-2 号 p. 24-30
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    有機物循環は湖沼の生態系を支える基盤であり,その理解は湖沼環境評価に不可欠である。湖沼において有機物の大部分は溶存して存在するため,溶存有機物(DOM)の動態把握は重要である。加えて,DOMの生物利用性は,水柱中におけるDOMのエネルギーフローに影響を与えるためDOMの質的情報にも注目する必要がある。DOM の生物利用性については分子サイズとの密接な関連が確認されているため,DOM の分子サイズを定量的に評価することができれば,DOM の量と質の同時把握が可能である。この同時把握は,我々の開発した全有機炭素検出を備えたサイズ排除クロマトグラフィーシステム(SEC-TOC)によって実現できる。世界最高レベルの性能でDOM の分子サイズ分布を定量評価可能である。本研究ではSEC-TOC の性能と琵琶湖とサロマ湖におけるDOM の分子サイズ測定結果を紹介し,湖沼環境研究におけるDOM の分子サイズの定量評価の重要性を議論した。

  • 風間 健宏, 早川 和秀, 霜鳥 孝一, 今井 章雄, 小松 一弘
    2020 年25 巻1-2 号 p. 31-42
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    総一次生産(GPP)は水圏生態系の重要な指標である。しかし,従来の測定法は,培養の時間や手間,ボトル効果など問題点も多い。高速フラッシュ蛍光光度法(FRRf) は,励起光を用いて光化学系II のパラメーター群をリアルタイムに取得し,電子伝達速度からGPP を推定する手法である。FRRf を用いたGPP 推定の現状課題として,(1)自然光とFRRf の励起光の波長の違いを考慮したスペクトル補正の必要,(2)植物プランクトンの吸収ピークと励起光の波長の違い,(3)光化学系II 反応中心の密度推定,(4)炭素当たり電子要求量(фe,C)の変動が挙げられる。このうち(2)については,フィコビリンを対象とした530 nm と624 nm の励起波長を搭載するFRR 蛍光光度計により,富栄養な水域で見られるラン藻ブルームにおいても,測定が可能である。淡水における使用例はまだ少ないが,知見の蓄積とфe,C のモデル化を進めることで,より広く詳細なGPP 測定が可能となるだろう。

  • 土屋 健司
    2020 年25 巻1-2 号 p. 43-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    バクテリア生産速度(BP)の定量には放射性同位体を用いたチミジン法やロイシン 法が一般的に用いられており,放射性同位体の使用が厳しい国・地域においては実測 例が限られ,生産動態を知る上で障壁となっていた。そこで我々は放射性同位体を用 いないBP 測定法を開発した。本手法では15N で標識したデオキシアデノシン(15N-dA) をバクテリアに取り込ませ,DNA 抽出,酵素加水分解後に液体クロマトグラフィー 質量分析計によって15N-dA 取り込み速度を定量し,BP を見積もる。15N-dA 取り込 み速度は湖沼及び海洋において既存の3H- チミジン取り込み速度と有意な正の相関を 示し,本手法の妥当性が示された。この15N- デオキシアデノシン法は化合物レベルで 定量を行うため,既存の手法では成し得なかった純粋なDNA 合成速度の定量を可能 とした。本稿では15N-dA 法の開発過程とともに,琵琶湖における応用例を紹介し, 最後に今後の課題や展開について議論する。

  • 西田 一也, 馬渕 浩司
    2020 年25 巻1-2 号 p. 53-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    琵琶湖沿岸の水田地帯はコイやニゴロブナ,ホンモロコなどが本湖から遡上して産卵する重要な水域である。近代的な圃場整備以前には,特にニゴロブナやコイは水路を通じて水田に容易に進入して産卵し,仔稚魚の成育場となっていた。しかし,圃場整備によって灌漑排水の方法等が変化した後は進入自体が難しくなり,これら湖魚の漁獲量の減少に繋がっていると考えられている。現在でも,流入河川や排水路までの進入と産卵は広く観察でき,また,「魚のゆりかご水田プロジェクト」による魚道がある場合は水田への遡上・産卵も可能であるが,そのような場所は限られている。圃場整備以前のように水田地帯が全体として広く産卵・成育場として機能するよう実現可能な改善策を立てるためには,ゆりかご水田も含めた現在の水田地帯の産卵・成育場としての実態を把握・評価する必要がある。そのためには,DNA 種判別を併用した産着卵の分布調査は大変有効である。

  • 吉田 誠, 馬渕 浩司
    2020 年25 巻1-2 号 p. 65-78
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    近年,動物装着型の電子機器を用いる「バイオロギング」という手法により,直接観察することの難しい野生動物の研究が盛んに行われている。この手法では,データを内部に蓄積する記録計,またはデータを電波・超音波により受信機へ送信する発信機を動物に装着し,その生理状態や運動のデータを,位置や周囲の環境情報と同時に取得する。湖沼における魚類のバイオロギング研究は,1970 年代に米国の五大湖で始まり,現在まで数多く行われている。一方,日本では1990 年代以降,最先端の機器を用いて,魚類の移動経路や3 次元的な遊泳行動の解明,生物多様性を含む水中環境の把握など,先進的な取り組みが進められている。将来的には,機器の小型化やこれによる対象種の拡大に加え,複数の研究者・研究機関の協働による広域かつ統合的な研究の推進が,気候変動下における湖沼生態系の保全のために必要となるだろう。

  • 早川 和秀, 佐藤 祐一, 岡本 高弘, 永田 貴丸, 後藤 直成, 冨岡 典子, 中野 伸一
    2020 年25 巻1-2 号 p. 79-86
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    琵琶湖をはじめとする国内の指定湖沼の一部では著しい水質汚濁が減少した一方で,生態系の異変が起きている。水質を維持しつつ生態系を保全するためには,両者のバランスをとる評価指標が必要である。本稿では私どもがこれまでに実施した琵琶湖における有機物の収支解析の結果を示すと共に,関連する湖沼水質保全分野のレビューを紹介する。有機物の収支解析の結果,琵琶湖沖帯の生物生産は,微生物食物連鎖に比べて生食食物連鎖が主体であることが確認された。さまざまな状況証拠から,湖沼の水質管理では,栄養塩を減らすだけでなく,魚介類資源の保全に適度な濃度を設定できる可能性が示された。よって,水域の有機物や栄養塩の収支解析は,水質と生態系保全を両立させるための評価手法として有効と考えられる。

  • 岡本 高弘, 山本 春樹, 山田 健太, 七里 将一, 藤原 直樹, 霜鳥 孝一
    2020 年25 巻1-2 号 p. 87-94
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    湖沼における底層水の溶存酸素は底層を利用する生物の個体群維持に重要であることから,2016 年に底層溶存酸素量(底層DO)が環境基準に設定された。基準値を達成しない場合,対策の検討をするために,底層DO の値だけでなく消費因子や物理的 な混合状況の把握が必要となる。琵琶湖では,水深90 m の水域において最も低い基準値である2 mg/L を2000 年頃から度々下回るといった課題があり,この水域の底層DO の変動を把握するとともに,低下要因をも検討する必要が生じてきた。そのため,酸素消費因子の1 つである底泥の酸素要求量(SOD)の測定を行い,底層DO の消費にはSOD の寄与が大きいこと,そのSOD に上昇が見られること等を見出し,琵琶湖では底層DO 低下への対応や評価にはSOD の把握が必要であると考えられた。 一方,水深90 m のSOD 測定は容易でないことから,国立環境研究所で開発された新たなSOD 測定法を活用し,この手法の導入を進めている。

  • 三浦 真吾, 高津 文人
    2020 年25 巻1-2 号 p. 95-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    近年,さまざまな分野でドローン(小型無人航空機)が利用されており,それは湖沼環境分野においても同様である。その主な利用用途としては,フィールドを撮影して植生の分布を把握したり,近距離リモートセンシングとして植物の水ストレスや生育状況の観測に用いられたりしている。このような目的のハッキリとした用途では, ドローンの活用は広がってきている。それ以外には,ドローンを使った立ちこみ危険地域での採水や,環境DNA サンプルの採水などといったユニークな利用方法が紹介されているが,実際に広く普及しているとは言えない状況である。この理由としては利用用途が限定的であり,その利便性あるいは優位性についての理解が広まっていないことが原因であると思われる。本論文では,さまざまなドローンの活用事例を整理し,ドローンの利用が湖沼環境研究に及ぼす影響について考察を行うものである。

feedback
Top