地理科学
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北タイ農村の就業形態と農村階層構成の変化 : チェンマイ県クランドン村の事例
木村 茂
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1998 年 53 巻 1 号 p. 1-26

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抄録

最近のタイでは, 経済成長が順調に進む一方で, 首都バンコクへの一極集中, 地域間および産業部門間における所得格差の拡大が問題となってきた。農村では都市化や商品経済の浸透, 農業の商業化の進展の程度, また各地方ごと慣習の違いなどによって, 地域ごとに少しずつ異なった社会的経済的な変化, 適応がみられる。本稿は, チェンマイ市から34kmの所に位置する, チェンマイ盆地の一村落を事例として取り上げ, 村人の就業形態と所得, 世帯ごとの源泉別所得構成の分析を通して, 近年の北タイの農村階層構成とその変化について明らかにすることを目的とした。近年のチェンマイ市やその近郊の町の発展は, 都市部での就業機会を増大させ, 道路状況の改善やオートバイの普及もあって, 通勤圏が拡大しつつある。しかし農村部の就業形態, 源泉別所得構成はいまだ土地保有面積の規模によって強く規制されている。上層農は, 積極的に利益の大きい商品作物を導入し, 収益の一部を自営業などに投下して農家所得の増加を図っている。また上層農の間では, 高学歴を必要とする専門職や企業の事務職などへの就業者も多い。これに対し下層世帯では, 不安定な日雇労働に大きく依存することによって家計の補填が図られている。バンコクなどへの出稼ぎは減り, 代わってチェンマイ市などへの通勤者が増えつつあるものの, 安定的な雇用への就業者はまだ一部に限られる。住民の多くは主に自家農業に従事しており, 農閑期の就労機会は限られている。今後, 均分相続の慣習によって農地の細分化がさらに進み, 土地なし層が増加することも考えられる。日雇世帯と, 上層農・自営業世帯の所得には大きな格差があり, 今後それがさらに広がるものと考えられる。

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