抄録
〔目的〕馬尾神経(終糸)に腫瘍が生じる場合は稀である。今回脊髄係留症候群を呈しない終糸にlipomatous変化を認めた症例を経験したので報告する。
〔症例〕症例は36歳、男性、主訴:腰痛、右大腿部痛。平成15年11月中旬に重い物を持ってから腰痛が出現。症状が改善せず12月25日当科初診。右ラセーグ徴候は40°であった。腰椎MRI検査にて第3腰椎レベルから第1仙椎レベルにかけてT1強調像、T2強調像にて高信号、脂肪抑制にて抑制され、造影されない腫瘤を認めた。脊髄円錐は第1/2腰椎間に存在した。症状軽減しないため平成16年2月13日手術施行した。硬膜を切開すると終糸の腫瘤は脂肪様変化を示していた。電気刺激を行い下肢、臀部に筋収縮がないことを確認し腫瘤を切除した。腫瘤の長径は7cmであった。術後、神経症状の悪化を認めなかった。腰痛、下肢痛、ラセーグ徴候は消失した。ホルマリン切除標本では5×0.8×0.6cmであった。病理学的診断ではほとんどが脂肪組織であり脂肪組織内部に上衣細胞で囲まれた裂隙があり神経線維組織を認めた。
〔考察〕脊髄係留症候群(低位円錐)を呈しない症例の終糸に脂肪様変化を認めた例はMRIで最近報告されているがほとんどが1-3mmである。今回は大きい脂肪様組織を認めた症例を経験し、その病理学的検討を行った。このような症例は文献を渉猟した範囲では報告されていない。
〔結語〕極めて稀な脊髄係留症候群を呈しない終糸にlipomatous変化を認めた馬尾神経腫瘤の1例を経験したので報告する。