抄録
日本で現在取り引きされている物価連動国債はクーポンと満期額面支払いが物価上昇率に連動して変化をする。この意味で物価連動国債は物価に関するデリバティブとかんがえることができる。またそれは満期の償還額に関し額面保証をおこなっているので物価に関するリアルオプションとも考えることができる。物価指数は日本の資本市場では取り引きがされていないこと、さらに昨今のマイナス金利に鑑み物価連動債の額面保証について議論することは重要である。
本論文は内外における物価連動債の仕組みと問題点を概観するとともに、その理論価格についてリアルオプション分析を行った。物価が取り引きされていないことを考慮して、オプション価格評価分析をリスク中立評価あるいはブラック=ショールズモデルの枠組みで議論するのでなく、投資家の期待効用最大化にもとづく一般均衡理論(プライシング・カーネルアプローチ)の枠組みのもとで試みた。額面保証の価値公式を導出するとともに、それが名目割引国債と額面保証のない物価連動割引国債によって合成できることを示した。またマイナス金利をこうした枠組みで説明できること、価格が意味するデフレ確率を推計できることをも示した。