抄録
いわゆる「オプション」と呼ばれる資産や契約条項は、不確実性やそれに伴うリスクに対処しての計画や意志決定において、中心的な概念として現れる。
近年、進展してきた金融技術においては、株式などの不確実変動をブラウン運動など、確率過程のモデルとして表現して、オプション資産の価値評価をしてきた。これらの革新的な理論と考え方は、金融の世界を超えて、ひろく、企業の事業プロジェクトや、公共プロジェクトの計画や戦略思考にも、大きなインパクトを与えてきた。
しかし、ブラックショールズなど、金融の世界で使われる強力なリスク資産評価法は、企業の投資案件や、公共インフラの計画の戦略策定に使うとなると、いくつか、難があることが認識されている。その主要な難点は、次の二つに整理できると思われる:
1. 金融の世界では、常に、原資産についての市場なるものがあり、その市場での変動との間で、裁定(arbitrage)関係をデザインして、リスクをヘッジすることが可能である。しかし、金融以外の世界では、そのような市場が存在しなかったりして、リスクをヘッジする手立てがないことが多い。
2. 企業の投資や、公共インフラ計画などに関わる意思決定では、不確実性とリスクなるものに関連して、市場がないのみならず、多種・多様なものを考えなければならない。たとえば、投資をした後に起こりうるリスク事象には、原材料の価格変動もあるが、競合他社の行動などがありうる。気象変動もありうる。これら、まったく異次元の諸現象を、包括的に、ひとつの多次元確率過程としてモデル化できたとしても、手に負えないほど、複雑になってしまう。
そこで、ここでは、金融のオプションモデルとは違った方法で、不確実性とリスクに直面しながら、なんとか、現実的に意思決定を支援するモデルと方法を紹介する。