抄録
【目的】歩行中の不意な外乱に対する、頭部、体幹下肢の姿勢変化について三次元画像解析装置を用いて検討した。【対象】整形外科的疾患や神経学的疾患および腰痛や下肢の痛みを有しない、健常若年者6名(平均年齢24.5±6.5歳)を対象とした。【方法】測定機器には、三次元画像解析装置(OPTOTRAK:Northern Digital社)とフット・スイッチ(PH-450:DKH社)をサンプリング周波数50Hzにて用いた。測定方法は、外後頭隆起(Occ)、第7頸椎(C7)、第8胸椎(Th8)、左側および右側の踵骨隆起(Cal)の5カ所に赤外線発光マーカーを貼り、さらに仙骨部には5個の赤外線発光マーカーを貼り付けた10×10cmのアルミ板を、ベルクロを用いて固定した。フット・スイッチの荷重センサーは右踵部の下にテープを用いて貼り付けた。被験者には、歩行ベルトが左右2枚に分離しているトレッドミル(PW-21:日立製作所)を用いて、4km/hでの外乱を与えない定常歩行を20秒間測定した後、4km/hでの歩行中に外乱を20秒間に任意に3試行与える外乱歩行を測定した。外乱は、右下肢の立脚期初期にトレッドミルの右側歩行ベルトのみ急激に2km/hまで減速させ、500ms後に4km/hに戻すことで発生させた。測定した定常歩行および外乱歩行のデータの解析は、仙骨部に設置したアルミ板を基準として剛体モデルを用いて骨盤部に座標系を作成し、静止立位時の骨盤に対するOcc、C7、Th8、左および右Calの計5カ所の位置変化を前後方向、左右方向について計算した。その後、定常歩行時の1歩行周期および外乱歩行時の外乱発生から1秒間における5カ所のランドマークにおける前方、後方、左方、右方へのピーク値(骨盤に対する最大の位置変化量)をそれぞれ求めた。統計処理は、定常歩行時と外乱歩行時の計5カ所における各方向のピーク値の比較を対応のあるt検定を用いてそれぞれ検定し、有意確率は5%とした。【結果】定常歩行と比較して、外乱歩行では前方へのOcc、C7、Th8のピーク値が増大し、左Calの前方および後方へのピーク値が減少、右Calの後方へのピーク値が減少した。左右方向ではTh8の左方へのピーク値が増大し、左Calの右方へのピーク値が減少した。【考察】歩行中の不意な外乱によって、頭部と体幹は前傾姿勢となることが示された。さらに体幹に関しては前傾だけでなく、左方へも偏位をすることが認められた。さらに下肢については、外乱を与えていない左下肢において、定常歩行時よりも位置変化を最小限にしていることが認められた。頭部および体幹の姿勢変化は外乱による体重心の偏位量を最小限にするための作用であり、さらに非外乱側下肢の変化は、転倒を防ぐために下肢の移動量を定常歩行時よりも減少させて素早く接地させた結果と考えられた。