理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: DO830
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骨・関節疾患(整形外科疾患)
胸椎椎間関節モビライゼーション手技が自律神経系に及ぼす影響
*猪原 康晴宮本 重範青木 光広
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抄録

[はじめに]1990年代以降頚椎に対する関節モビライゼーションの自律神経への影響についてVicenzino等の報告がある。しかし、胸椎に対する関節モビライゼーションの影響についての報告はない。本研究では、健常者を対象に中位胸椎(Th4-Th8)に対し関節モビライゼーションを加え、心電図を用いて心拍変動を調べ、低周波(以下LF)成分、高周波(以下HF)成分、低周波成分/高周波成分比(以下LF/HF)を解析し胸椎に対する関節モビライゼーションが躯幹の自律神経系に及ぼす影響について検討した。[対象および方法]被験者は健康な20代の男女20名(男性10名、女性10名、平均22.6歳)である。交通事故の既往歴がある者、薬物治療とダイエットを行っているものは除外した。実験に先立ち被験者に対して実験に関する十分な説明を行い、書面にて承諾を得た。実験前日の運動、午後9時から実験終了までのアルコール類・カフェイン類の摂取および喫煙を避け、実験当日の朝食・昼食は軽く摂り、実験開始2ー3時間前までに済ませるように被験者に指示した。実験は室温が23-26度に保たれた薄明かりの静かな部屋で、午後2時から6時の間に実施した。実験は、1、胸椎椎間関節(Th4- Th8)に対するモビライゼーション手技群、2、1の部位の皮膚上に指を当てるのみのプラセボ手技群、3、体位変換のみを行わせ徒手的接触を行わないコントロール群の3群について同一被験者で異なる日に実施した。被験者は15分間仰臥位をとり安静臥床の後、心電図、周波数解析装置の電源を入れ、メトロノームを用いて0.25Hzのリズムで呼吸を行った。7分間仰臥位で測定した後、被験者は腹臥位となり、モビライゼーション手技或いはプラセボ手技を施行し、その後、仰臥位に戻り約30分間その姿勢を保った。統計処理は3群それぞれにおいて、15分間安静臥床後の5分間平均を基準とした。腹臥位から仰臥位への体位変換直後、体位変換5分後、体位変換15分後(以下15分後)、体位変換25分後(以下25分後)の5分間平均および体位変換5分後の20分間平均(以下20分平均)の資料を対応のあるt検定を用いて行った。[結果]3群共に計測時のいずれの時間においてもHF成分には有意な差は認めなかった。LF成分、LF/HFはモビライゼーション手技群、プラセボ手技群で15分後、25分後、20分平均で有意に増加していた(P<0.05)。[考察]本結果から中位胸椎椎間関節に対するモビライゼーション手技は、20才代の健常者のHF成分つまり心臓迷走神経に影響を及ぼさないことが明らかにされた。プラセボ群・モビライゼーション群は共にLF成分、LF/HFつまりβ系交感神経に対して影響を及ぼし、体位変換のみのコントロール群では影響を及ぼさなかった。このようなβ系交感神経活動の亢進は、主に皮膚刺激によってもたらされたと考えられる。頚椎の先行研究を考慮に入れると、モビライゼーション手技施行時間を延長することにより、より大きな交感神経刺激効果が期待される。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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