抄録
【はじめに】膝前十字靱帯再建術後の理学療法において、関節可動域(以下ROM)は重視される理学所見の一つである。早期からの理学療法が進められる反面、ROMの早期回復は関節の緩みに影響があるとされている。今回、我々は膝前十字靱帯再建術後患者のROMを経時的に測定し、1年後の前方移動量と比較した。【対象と方法】対象は当院にて膝前十字靱帯再建術を行った半月板修復例を除く患者49名(男13名女36名)である。使用健は半腱様筋+薄筋腱(STG)である。屈曲ROMは訓練直前患者自身が可能な屈曲角(以下自力屈曲)と、訓練後最大に可能であった屈曲角(以下最大屈曲)を測定した。また、伸展についてはhell-height difference(以下HHD)を訓練前後に測定した。測定時期は手術前日、手術後1,2,3,4,5,6週,2ヶ月,3ヶ月,1年である。前方安定性 の評価はMEDmetric社製KT-2000を用い、徒手最大ストレスの前方移動量(以下KT値)を術後1年時に測定した。再建術者とKT-2000の検者は、全て同一の者が行った。【結果】術後1年時にKT値の健患側差が3mm以上(以下不安定例)であったのは、12名(24%)であった。各測定時期の屈曲および伸展と術後1年における不安定例出現率の関係をみるために比率の差による検定を使用した。自力屈曲角では大きいほど不安定例が増加する傾向があり、術前から術後2ヶ月までの時期に有意な差がみられた。例えば,術後1週では,80度以上と80度未満の間で,術後2週では90度以上と90度未満の間で有意な差が認められた。最大屈曲角は術前,術後1,3,4週で屈曲が大きいほど不安定例が有意に増加していた。また、最大屈曲角から自力屈曲角を引いた屈曲角の差が小さいほど不安定例が多く、術前から術後6週まで有意な差がみられた。伸展に関しては訓練前・後のHHDが小さいほど不安定例が増える傾向がみられ、術前,術後1,2,3,4,6週で有意な差がみられた。また、訓練前と訓練後HHDの差が小さいほど不安定例は増える傾向があり、術後1,3,5週,3ヶ月で有意な差がみられた。【考察】ROMは訓練の影響を検討するため,また,一般的なactive ,passive ROMよりも日常行われていると考えられるROMの方が重要と考え,患者自身が行える可能な角度を訓練前に測定した。その結果,ROMの回復が早いほど1年後の前方移動量が大きくなり,関節の緩む可能性があることが分かった。屈曲、伸展とも訓練前後の差が少ないほど1年後の前方移動量が大きく,訓練の影響よりも日常行われているROMの方が関節の緩みに対して影響が大きいと考えられる。早期にROMが回復する例には不安定性再発防止のために理学療法のみならず日常も含めたリハビリテーションプログラムのmodificationを要すると考えられた。